【仮想化】米レッドハットは、マイクロソフトとの間で両社の仮想化プラットフォームの相互運用性拡大に関して合意したと発表した。両社はそれぞれの仮想化検証/認定プログラムに参加し、お互いのサーバー仮想化ユーザーに協調的な技術サポートを提供する。現在、仮想化環境と非仮想化環境とが混在しているが、Red Hat Enterprise LinuxとWindowsServerの混在環境を含めてユーザーの仮想化環境への展開を図る。これによりユーザーは、Red Hat Enterprise仮想化上に仮想化されたWindows Server OSの実行と、Windows Server Hyper-VおよびMicrosoft Hyper-
V Server上に仮想化されたRed Hat Enterprise Linuxの実行について、協調的な技術サポートを受けることができるようになる。提供は09年後半予定となっている。 (レッドハット:09年2月18日発表)
【コメント】今回マイクロソフトとレッドハットとが、仮想化という技術に限定されているとはいえ、提携したことは画期的なことと言ってもよいだろう。一時期マイクロソフトは、オープンソースソフトウエア(OSS)に対して敵意をあらわにした時代もあった。マイクロソフトがOSSを認めることは、自社の牙城の一部にしろOSS陣営、具体的にはレッドハットに明け渡すことを自ら認めてしまうからだ。このためマイクロソフトは「ウインドウズとLinuxではどちらの方がコストが安く済むか」という一大キャンペーンを張り、OSS陣営、なかんずくレッドハットに対し徹底抗戦の構えを見せた。その後マイクロソフトは、方針を180度転換させ、OSS 容認の方針に改めてノベルと提携などすることにより、逆にOSSの推進者としての立場を強調し現在に至っている。この辺は以前、マイクロソフトは当初インターネットを無視し独自のネットの構築を目指したが、インターネットの普及を目のあたりにした結果、インターネット推進の方針に全面的に切り替えたときと酷似している。
現在、企業ユーザーが導入しているハイパーバイザー上のx86OSは、WindowsとRed Hat Enterprise Linuxが全体の80%を占めるとみられている。マイクロソフトは現在ノベルとLinux事業で提携をし、Linux市場へのWindowsの参入、またWindows市場へのLinuxの取り込みを進めているが、いかんせんノベルのLinuxOSであるSUSEは市場での認知度は高くはない。こうなるとマイクロソフトといえどもユーザーの声、すなわちWindowsとRed Hat Enterprise Serverの連携の要望を無視するわけにはいかなくなり、今回の提携に至ったものと推測される。
現在マイクロソフトとしては、自社の仮想化ソフトHyper-Vを早く市場に普及させなければという喫緊の課題を背負っている。また、OSSの仮想化ソフトは、マイクロソフトとは親しい関係にあるシトリックスがZenを買収し普及に努めており、マイクロソフトとしてはOSSの仮想化ソフトは今後Windowsの普及を図る上からも重要な存在になってくる。一方、レッドハットとしてはマイクロソフトと敵対関係あっては自社LinuxOSを普及させることは不可能であり、今回仮想化技術に限定してでもマイクロソフトとの提携は大いにプラスに働くと判断したのであろう。
問題はマイクロソフトとレッドハットが、仮想化技術に限定した提携関係をもっと別な分野にも拡大するかどうかであろう。もし、今後別な分野での提携に拡大するとなると、IT市場はマイクロソフトとレッドハット連合軍が大きな力を持つことは避けられない。マイクロソフトがグーグルの躍進を食い止める策としてレッドハットとの提携を考えるとするなら、必ずしも絵空事とは言い切れまい。もしそうなった場合、IT界のドンを自他ともに任じているIBMの存在が微妙になってくる。現在日本IBMが大苦戦を強いられているが、これは何も日本市場だけの特殊な事情だけでは済まされない問題を抱えているのだ。IBMはメインフレームで成長を遂げた企業であるが、メインフレームが終焉しつつある現在、次のIBMの切り札は何かという問題に突き当たる。マイクロソフトとレッドハットの提携を固唾を呑んで見ているのは本当はIBMなのかもしれない。(ESN)