縁側でちょっと一杯 in 別府

東京から別府に移住してきました。
のんびり温泉に浸かり、美味しい魚で一杯。
夢に見た生活を楽しんでいます。

ほんとのギムレット

2007-03-26 23:41:57 | 芸術をひとかけら
 昨日本屋に行ってびっくり、なんと村上春樹が『ロング・グッドバイ』を訳していた(えっ、気が付くのが遅いって、すみません。)『ロング・グッドバイ(長いお別れ)』といえば、レイモンド・チャンドラーの代表作、私立探偵フィリップ・マーロウの活躍するハードボイルドの名作である。ハードボイルドと村上春樹、うーん、ちょっと結び付かない。彼の小説の主人公といえば、ハードボイルドの主人公というより、どこか不完全な、不安定な人物。そう、どちらかと言えば、もとい断然『ライ麦畑でつかまえて』のホールデンの方が近い。
 村上春樹の『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』は僕のお気に入りだが、それ以外、彼の小説の中で“ハードボイルド”という言葉すら見た記憶がない(ちょっと言い過ぎ?)。それほど村上春樹とハードボイルドとは対極の存在に思えた。

 僕自身は彼の訳で『長いお別れ』を読んで見たいとは思わない。が、彼の訳を通じ、ハードボイルドに関心を持つ人が増えると嬉しい。
 軟弱な時代のせいか、このところハードボイルドはとんと人気がない。ハードボイルドというと冷酷非情なイメージ、暴力とセックスのイメージなのかもしれないが、それは違う。ある意味、それは男の美学であり、ロマンなのである。

 「強くなくては生きていけない。やさしくなくては生きている資格がない。」

 これは『プレイバック』の中のマーロウのセリフ。いやー、こんなセリフ、普通言えない。本当に強い人間、肉体的には勿論、精神的にもタフで、そして自らの信念を決して曲げない強い人間でなければ言えない。

 ついでに、『長いお別れ』の中の“ほんとのギムレット”の話を。テリー・レノックスがマーロウに言う、「ほんとのギムレットはジンとローズのライム・ジュースを半分ずつ、ほかに何も入れないんだ。」
 しかし、この“ほんとのギムレット”、“ハードボイルド”とは程遠い飲み物だ。甘くてとても飲めやしない。プロに聞いたところ、そもそもギムレットにジュースを使うことすら邪道、フレッシュのライムがなければギムレットを作らないのが正しい、とのこと。

 今まではこんな話をしてもまったく通じなかったと思うが、村上春樹のおかげで『長いお別れ』が改めて陽の目を見れば、夜のバーでこんな会話が交わされるかもしれない。ウンチクを垂れる彼に、尊敬の眼差しで見つめる彼女。
 そして別れ際に彼が言う、「僕にとって君に『さよならを言うことは、少しの間死ぬことだ。』(注:ちょっと引用の仕方、脈絡に無理があるが、同じく『長いお別れ』より)その間の僕の人生に意味はない。」
 うーん、やっぱり“ハードボイルド”は男のロマンだ??(どこか意味が違うような・・・・)

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