縁側でちょっと一杯 in 別府

東京から別府に移住してきました。
のんびり温泉に浸かり、美味しい魚で一杯。
夢に見た生活を楽しんでいます。

トランプは“ビッグ・ブラザー”というよりも・・・

2017-02-01 00:02:55 | 海外で今
 今、アメリカで小説『1984』がベストセラーになっている。村上春樹の『1Q84』ではない。20世紀半ば、ジョージ・オーウェルによって書かれた小説である。日本でも1984年にちょっとしたブームになり、僕もそのときに読んだ。
 『1984』は全体主義国家の恐怖を描いた小説であり、常に“ビッグ・ブラザー”に監視され、人々の行動はおろか思考をも管理された、恐ろしい社会の話だった。

 なぜ、そんな昔の小説が今また売れているのだろうか。
 
 それは、先日のトランプ大統領就任式の観衆の人数を巡る大統領側とマスコミの論争(というか言い合い?)がきっかけである。

 トランプ大統領は就任式の観衆を25万人としたマスコミ報道を嘘だと非難し、さらにスパイサー大統領報道官にいたっては就任式に集まった人数は「史上最大」とまで言い放った。実際にオバマ大統領の就任式の写真と比較すると、25万人が正しいかどうかはともかく、「史上最大」というのはとても信じ難い。
 これは分が悪いと思ったのか、大統領特別顧問・コンウェイ氏は、報道官が言ったのは “alternative facts” (代替的な事実)に過ぎないと擁護した。が、かえってこれが火に油を注ぐ結果になってしまった。
 どうもコンウェイ氏本人は「そうした見方もある」といった軽い意味で言ったらしいが、トランプ嫌いのマスコミがそれに噛みついた。代替的な事実、即ち真実に代わることのできる事実を政府が作り上げるのか、それではまるでオーウェルの『1984』と同じではないか、というのである。

 小説『1984』において、政府は人々を支配するため、ニュースピ-ク(新語法)により人々の語彙、延いては思想を管理・統制し、また歴史を改竄して今がもっとも恵まれていると信じ込ませていた。
 その上で政府は全体主義を正当化する“doublethink”(二重思考)の考え方を国民に植え付けたのである。それは人々に「自由は隷従である」など相矛盾したことを信じ込ませる、いわばマインド・コントロールであった。人々は、ついには二重思考により「2足す2は5である、もしくは3にも、同時に4と5にもなりうる」とまで考えるようになる。つまり、政府が言えばそれが“真実”になるのである。
 マスコミは、“alternative facts” をオーウェルの二重思考だと非難し、それがSNSで瞬く間に広まり、今回のベストセラーに繋がったのであった。

 正直、マスコミも言い過ぎというか、考えが飛躍し過ぎている気がしないでもない。それに『1984』の世界とトランプは似て非なるものである。
 『1984』の支配体制は極めて緻密に計算されているのに対し、トランプの政策はただの思い付きのようなものが多い。具体策がないのである。例えば、メキシコ国境の壁は資金調達がそれこそ壁になっているし、今回の米国への入国制限にしても翌日になってグリーンカード(永住権)保有者を適用外にするなど準備不足は否めない。また、一方的な入国制限が内外で騒動を引き起こすなど考えていなかったかに見える。いずれにしろ緻密さとは程遠い。
 トランプには子供っぽい言動が多いし、『1984』のビッグ・ブラザーというより、その辺のガキ大将に近い気がしてならない。が、しかし、権力を持ったジャイアンほど たちの悪いものはないだろう。我々は、米国のマスコミに、そして米国の議会に、トランプがおかしな方向に行かないようブレーキを期待するしかない。