縁側でちょっと一杯 in 別府

東京から別府に移住してきました。
のんびり温泉に浸かり、美味しい魚で一杯。
夢に見た生活を楽しんでいます。

ジャズの不思議(Bar編)

2007-05-14 22:25:51 | 芸術をひとかけら
 久々に廣瀬さんの店(2006年5月10日付記事を参照)に行った。週半ば、水曜日であるが、思いのほか混んでいる。僕の記事のおかげ?のはずはないが、まあ目出度いことだ。

 僕はカウンターの端に座った。既に結構飲んでいるから何かすっきりしたものを、と思い、モヒートを注文した。すると廣瀬さん曰く「すみません、今、ミントの葉がないんです(注:いつもは鉢植えでミントを育てている)。葉っぱなしで如何ですか。葉っぱなしでもすっきりしますよ。下手な葉を入れるより、その方がおいしいときもあります。早い話、ラム・リッキーですからね。」
 僕はミント抜きのモヒートを頼んだ。そう、何を隠そう、僕は素直なのである。が、確かにおいしい。ライムの爽やかな味が口の中に広がる。廣瀬さんを信じて間違いはない。

 一人で飲みながら、ふと、昔よく行ったバーのことを思い出した。

 そこのマスターは脱サラしてバーを始めた人だった。証券会社で働いていたというが、物静かで、証券マンというより学究肌の人に見える。店に客がいないときはいつも本を読んでいる。BGMはジャズ。店を始めたのは酒好きが嵩じてというのではなく、ジャズをいつでも聴けるからだという。ここを知ったのもジャズ・ライブの店の人の紹介だ。店を始める前、彼はよくジャズを聴きに来る良いお客さんだったそうだ。それがいつの間にか立場が逆になってしまった、と笑いながら彼は話していた。

 店に知らない曲が流れていると、これは何という曲か、誰の曲か、とよく尋ねた。そこで、この曲とっても良いね、気に入ったよ、などと言うと、次回店に行った時、マスターがダビングしたテープをくれることがあった。古いCDであまり売っていないからダビングしました、と彼はさりげなく言う。テープはいつのまにかどこかに行ってしまったが、手元にはなんとか探し出して買ったCDが2枚ある。ナラ・レオン『美しきボサノヴァのミューズ』とドロシー・アシュビー『イン・ア・マイナー・グルーヴ』である。

 前者はその名の通り、ボサノヴァ。1950、60年代の古い曲が多いが、ナラ・レオンが軽やかに、そして流れるように歌うのを聴くと全然古い気がしない。洗練された感じがする。「イパネマの娘」や「ワン・ノート・サンバ」など24曲入っており、入門者にはちょうど良いCDといえる。かく言う自分も、これがボサノヴァ・デビューだった。
 “ボサ・ノヴァ”とは、ポルトガル語で新しい傾向、やり方といった意味。サンバに対する新しい音楽ということで、そう呼ばれたのであろう。が、“新しい”といっても、それは50、60年代の話。本国ブラジルでは今や懐メロ扱い、ほとんど聞かれていないという。日本のグループサウンズのようなものだろうか。そんなボサノヴァが地球の裏側の日本で人気というのもおもしろい。

 一方、後者も古いが、これは、なんとハープとフルートによるジャズである。ハープのやさしく、美しい音色とジャズとは対極にある存在に思えるが、このCDにより、その考えは覆される。ドロシー・アシュビーのハープは正真正銘のジャズを奏でている。そして、これまたジャズとは結び付かない、フランク・ウエスのフルートが、ハープと共にジャズのスタンダードを立派に演奏しているのである。
 意外な相性の良さ。ハープやフルートとクラシックとでは当たり前だが、実は、ハープとジャズは“出会いのもの”なのだろうか。これぞ音楽界の「鴨とネギ」、ないしは「鮎の塩焼きとビール」??
 
 うーん、ジャズの道は深い。