遙かなる透明という幻影の言語を尋ねて彷徨う。

現代詩および短詩系文学(短歌・俳句)を尋ねて。〔言葉〕まかせの〔脚〕まかせ!非日常の風に吹かれる旅の果てまで。

現代詩「美しい詩人の墓」

2010-08-15 | 現代詩作品
美しい詩人の墓



激しい雨もやんだ彼岸の前日 
ようやく曹洞宗の境内に たどりつく(探し探して)
瀧口家と記された 墓の多いのに とまどう。
(滝口と瀧口の違いは?)


やっとみつけた 美しい黒い御影石の前で 合掌する。
と、急に さしこめむ 薄日に
残雪はるか くっきりと 背後にうかぶ
立山連峰に 背を向けた 美しい黒のまぶしさ。


「写真、一枚撮っておこうか」
多くの瀧口家の墓に 囲まれ
詩人の墓の家紋だけが ぽつんと 異なっているのは
(なぜ?)日没までの謎は夕闇を ざわつかせる。
……答えのない問い 出所不明の詩もあるが
思いもつかない 言葉の出現のように
突然 お寺の奧の小窓から 手を振っている(「さよなら」?)
小さな女の子がいる。


潔癖を生きた詩人 とはいえ
夢の番人まで 頼むことはしないだろう。
ここに着いた時からある視線は 感じていたが 謎は、
夢を育む 辺りの樹木をまきこみ 夕闇が 帰宅を迫る。



*今朝は曇り空です。
激しい雨が降るという予報ですが、まだふっていません。(AM6時)

現代詩「珠玉」

2010-08-12 | 現代詩作品
珠玉



つぐみの
囀りが
混入している
古いテープの背中の文字が
英語か、
落語か、
読めないからと
背中の彫りものに聞いても
たぶん無駄だよ。

戦後まもなくの頃に
雑音まじりのラジオから
いきなり米軍二三三隊吹奏楽隊が流れ
笈田敏夫が新倉美子が水島早苗が黒田美治らが流れて
落語が好きだったという
彼の祖父さんは
耳栓を買いに走ったそうだよ。

走りは、痴呆症を認知症と呼び換えた
つぶやきとも違って
愚痴も
啖呵も
懐かしい下町のべらんめい調でさえ 
雑音まじりのラジオに
負ける訳にはいかねぇってんで、
雑音の軋轢や
苦しい場面に出くわしながらも
猿まねじゃねえ
猿楽の美の歴史から日々遠くなるのが、わびしいわけでも
ねえんだって、聞いたよ。

ただ胸のすく啖呵こそ
朦朧を否定すると信じた、彼の
祖父さんの
珠玉の囀り、それがあの
浪曲という、
とても懐かしい宿酔のテープ
見つからないとわかっていながらも
さがしている。さがすことこそ
肝心なんだ、と。



*台風が来そうだとテレビでは注意を呼びかけています。九州地方は大変でしたね。
今日は一日、注意しないと活けないようで、出も明日からお盆だし、
ばたばたしそうです。

現代詩「逗留」(とうりゅう)

2010-08-10 | 現代詩作品
逗留



朝の窓は深い霧にとざされていて
心のなかへと冷気が送り込まれるせいか
この先の予定も曇る
曇るのは昨日までの核心のもろさからか
そらぞらしい空や、そらぞらしい人々から
逃れようというわけではないものを
分厚いコートを羽織って
朝の寒さに
ふっと漏らす吐息のなかで、またも戸惑うのだった

…いつからこんな曖昧な水際を
…呼び込んでしまったのだろう

感動の薄い日々とはいえ
窓の向こうのかすかな潮騒が
瀬戸際の耳の生命力をおしはかり
しらぬ間に見失っていくもののさみしさ
一瞬にさらわれた愛しいひとにまつわる幼い日の空疎感
死者というあらがいのない出来ごとの結果が
まるで空疎なに胸びれにとびこんできて
手帳の中の今日一日の日程に
咳き込んでいた

…死後の世界を想像させる静かなホテルは
…はるかな異国の言葉が眠りいる場所か

カモメの群れが急に飛び立つ
遙か遊泳禁止の海岸線で
ちっぽけなこだわりに咽せていた
自分の顔を想像しながら
冷たい風によりかかってみるが
砂利に足を取られて
(時代は毒のバロメーター、
無様な生き方をなぐさめてくれるかのような地平の果ての
たとえば、死者の視線が気になる

…よどみきった日常の隙間という曖昧な水際を
…いつからため込んでしまったのだろう

港町にきて顔を盗まれたのではない
見失ったのでもない
今日一日の
朝の冷気が旅の予定をせかせるようで
窓の曇りを払えば、
見知らぬ顔が奇妙にゆがんでみえる
等身大の鏡はさみしい、
どこか不確かな顔の記憶に
もう一度熱いシャワーを浴びせていた


今朝の朝焼けは、素晴らしく綺麗です。毎朝みているので巣が、何かちっがって見えました。好いことがありそうだなぁ。

現代詩「丘の日の狐」

2010-08-09 | 現代詩作品
丘の日の狐



喧噪の街なかを逃れるように
小高い丘にのぼるようになった理由は思い出せない

晴れた日は青い空を流れる霊媒の白い雲をよび
夏休みの川を流れて会えなくなった友を
悼んでいたのか
沈む夕日になにを願い祈りをこめていたのか
いまはまったく思い出せない

夏草でむせかえる丘の一角には
石碑があって、
誰かの歌が刻まれていたが
こけむす石の大きさが不釣り合いに思えて仕方がなかった
うっすらと匿名の山田なにがし、と読めた、

……つわものどものゆめの跡か。蹟か。痕か。…。

春先の丘はおそい山菜採りのひとに出合うこともあった
夏の夕暮れには思いがけず
親しげに霊媒の雲がおしてくれた
ここには誰も知らない死後の物語で埋め尽くされていて
夜更けは狐火があちこちでぽっぽっと燃えていると、

噂ではないがぼくも浮浪児とよばれた身よりのない子のひとりだと
この丘に来てはじめて知ったようなものだから
あの霊媒の白い雲の下、
遠く小さな家並にぽつんぽつんとともる鬼火に
でたらめの歌をうたって本当の住み処をさがしていたのだろうか

小雨の丘のみなし子。
夕陽の丘のみなし子。
みかんの花咲く丘のみなし子。そして
鐘の鳴る丘のみなし子。港が見える丘のみなし子。
異国の丘のみなし子。それから
丘は花ざかりのみなし子。丘を越えてのみなし子。
あの丘越えてのみなし子。その他大勢のみなし子たち。

小公子や、三銃士や、十五少年漂流記よりも、テレビの
てんぷくトリオや、脱線トリオの風にぼくらがまかれた頃は
丘の上から吹きおろす風があった
今も、泣き泣き吹きおろしているか

……つわものどものゆめの跡か。址か。墟か。…。

早蕨の丘に来て、
ふと過去の阯のしぶきにむせかえるぼくら
時々、ゆめの遭難者が後をたたないこの丘には、
きっとみなしごの子狐もいるはずだ


現代詩「逗留」

2010-08-08 | 現代詩作品
逗留



朝の窓は深い霧にとざされていて
心のなかへと冷気が送り込まれるせいか
この先の予定も曇る
曇るのは昨日までの核心のもろさからか
そらぞらしい空や、そらぞらしい人々から
逃れようというわけではないものを
分厚いコートを羽織って
朝の寒さに
ふっと漏らす吐息のなかで、またも戸惑うのだった

…いつからこんな曖昧な水際を
…呼び込んでしまったのだろう

感動の薄い日々とはいえ
窓の向こうのかすかな潮騒が
瀬戸際の耳の生命力をおしはかり
しらぬ間に見失っていくもののさみしさ
一瞬にさらわれた愛しいひとにまつわる幼い日の空疎感
死者というあらがいのない出来ごとの結果が
まるで空疎なに胸びれにとびこんできて
手帳の中の今日一日の日程に
咳き込んでいた

…死後の世界を想像させる静かなホテルは
…はるかな異国の言葉が眠りいる場所か

カモメの群れが急に飛び立つ
遙か遊泳禁止の海岸線で
ちっぽけなこだわりに咽せていた
自分の顔を想像しながら
冷たい風によりかかってみるが
砂利に足を取られて
(時代は毒のバロメーター、
無様な生き方をなぐさめてくれるかのような地平の果ての
たとえば、死者の視線が気になる

…よどみきった日常の隙間という曖昧な水際を
…いつからため込んでしまったのだろう

港町にきて顔を盗まれたのではない
見失ったのでもない
今日一日の
朝の冷気が旅の予定をせかせるようで
窓の曇りを払えば、
見知らぬ顔が奇妙にゆがんでみえる
等身大の鏡はさみしい、
どこか不確かな顔の記憶に
もう一度熱いシャワーを浴びせていた

現代詩{ひとはそれぞれに」

2010-08-07 | 現代詩作品
人はそれぞれに



人はそれぞれに
さずかった名前を生きる、人はそれぞれに
他の名前にささえられ、他の名前をささえて
地上のあかりをかこつ
こんなありふれた事柄を
人はそれぞれ振り替えることもあるのか
ひろい世界の名もない川を流れる一個の石ころ
喧噪の町であれ、無人の村であれ
孤立という他愛ない比喩の
人はそれぞれに、明暗の橋をわたり
命の比類なき霊力を手にする、とは限らないが
あらゆる災難からまもられていると信じて
日々の清貧と贅沢を競い合う
それを悲しい運命の摂理にすり替えたきみは
そそくさと背中をむけて去っていったが、
(あとは追うまい、
生きる力は、それぞれに
明日なき未生に託す不安は隠しきれず
誰かのために、何かのために微力をたくわえている
脆弱な視力の切っ先で
葦にもなれば水の華にも塩にもなれる



現代詩「無視の歓び」

2010-08-05 | 現代詩作品
無視の歓び



堅い胡桃を割って
過ぎた夏の日のメロディーを振り替えり
沢杉の
記憶に手を入れても
耳の、
庭には無数の虫が発生するだけ…。

うっそうとした「さわ」に榎木、ハンノキ、ウツキ、ムラサキシキブの類
蔓性のアケビ、ヘクソカズラ、そしてモリオアオガエル、トミヨ、
吹き抜ける風は太古の記憶を楽しんでいる
沢のうれしさ、
猥雑さ、個々の名を書き連ねながら、
命名者の歓びにふれていた…。

傾く日の光に傾く森の物語を
落ちていくのはいつも悲惨な男ばかり
そんな男たちの群がる死者の影に重なるよりは耳の庭の虫がいい。
無視。無私。夢死がいい。と、目覚めの夢は痛い、
痛い麻縄のハンモックの、
反目の日が落ちて…。

現代詩「天国に一番遠い駅」

2010-08-02 | 現代詩作品
天国に一番遠い駅



ためらいがちの
話は、
どこか曖昧で
明治四四年に敷かれた命運の
線路と駅舎を
ピンナップする鉄の人は
稀とか、

……稀な朝、
  レールにこびりついていた
  肉の記憶(缶詰の空き缶に割り箸でひろいあつめた)
  某老人の生涯  
  ぼくらの遠足は中止となり
  悲鳴、誤報、泪…、
  選挙落選の尾ひれが町内をかけめぐる……

紡績工場の話は、
すでに野辺の祖母が
訊かせてくれた、夕日も
溶けて、忘却、濃霧、懐かしさ
その工場の綿布も
貨物列車のお蔭とか、町史は
五千人の女子工員を擁したという誤字の、空々しさ

……この國が貧しい頃の
  北方の町から
  少女たちの命運をはこんだ
  列車には、貧困、哀切、勉学と
  草の絨毯をひき裂き、泪に咽せた駅舎
  ふり向けば、鉛の空の下の
  なんと殺風景なこと……

ふたしかなことばかり
雲の上の児らに一番近い学園を
ぬけだして
ここの乗客の荷物を
持ちはこぶ
乗客の笑顔が唯一の歓びだという、彼の力こぶには
親切なセンサーという病気が眠っている

……学園をぬけだし
  そのたびに水を浴びて
  誤謬のように地雷をふむ
  青ざめた指導員は
  犬を連れて帰る腰つきで
理由はなんであれ
  口にはしない、隔離の日々……

(五十を過ぎて)青洟を
すすっていた、
二十年まえの彼の、名前が思いだせない
愛犬のジローに似た名前のはずが
ジローも、ぼくも
すでに死んでしまっていて
思い出せないのだ


*八月に入りましたが、この暑さはまだまつづくのでしょうね。
近頃ヘリの事故が相次いで各地で起きています。このような事故の共時性はいやですね。
富山では好くルールバスの事故もありましたが、乗り物の事故なども相次いでいますね。
気をつけてください。

現代詩「水府まで」

2010-08-01 | 現代詩作品
水府まで



行く先もたしかめず
切符をにぎり
山をくぐり
谷をくぐって
あいまいな不安や恐怖に追いかけられる
事実であろうと、なかろうと
乗り合わせた人びとの
命運までは思いいたらない
それは
荒れ野にはじめてレールを引いた人のことなど
おもいいたらないのに似ているか

(ぼくの拙いことばでは、
(あなたに届くはずがない

車内では
遺失物と区別がつかない
行旅死亡人と名付けた
無縁な人々が
死んでなおその先の世界で生き直すための
詩の道ってどこにあるのか
ついの栖とは
他人に見えない、あるいは
見せたりしない
無意識の自己のさみしさは
民俗資料館のめぐりに蔓延する蔦に等しくないか

金沢発上野行きの
夜行列車「北陸」「能登」が
静かに冥土に至り
帰郷できなくなった新生ふるさと喪失者たちは
純情な文学のように泪にくれた
それもつかの間、
動画に明け暮れて、ついに作家だと思いこむ深い負傷
郷土という特権的な幽霊の水府
泪の種子の発火点から風媒花のように飛び散り
いつか地中ふかく根を張りはじめる
不安な花も咲く日があるか

(ぼくの拙いことばでは、
(あなたに届くはずがない

それどころか
パッケージ旅行ではない
個人の幸福度を
追求するにはわがままでなければうまくいかないからと
行く先知らずで
とりかえしのつかない支線の乗り換えは
行旅死亡人の
悲運な生涯となんら変わらないだろう
その泪の孤立化
その泪という水平線化は、
いったい
どこで断ち切ることが出来るのだろう