遙かなる透明という幻影の言語を尋ねて彷徨う。

現代詩および短詩系文学(短歌・俳句)を尋ねて。〔言葉〕まかせの〔脚〕まかせ!非日常の風に吹かれる旅の果てまで。

現代詩「雨なのに青い空」

2010-08-25 | 現代詩作品
雨なのに青い空



なんど列車で いったり きたりしたか
富山から 東京へ
東京から 富山へと
五歳の頃の 記憶にはじまり
何十年を のうてんきで 生きてきたのか。
   (「のうてんき」は 辞書では
    能天気 とも脳天気 とも書き
    軽薄で むこうみずのさま。
生意気なさま。深く考えないさま。であると)
ずっとずっと列車に 揺られている
深夜、私を 通過する 列車の汽笛で
ふと目が覚めて
我が家の ベッドに 引き戻されたりする。


直江津。浜谷(無人駅)。有間川(無人駅)。名立(無人駅)。
筒石。能生。浦本(無人駅)。梶屋敷(無人駅)。糸魚川。青海。
親不知(無人駅)。市振(無人駅)。越中宮崎(無人駅)。泊。入善。


今は 中野重治の「しらなみ」も
トンネルで見えず 早朝通過の列車も 死んで
親不知あたりでは、幽霊のように
一瞬 雨が降っていても なぜか青い空が 見えたりする。
この町の駅で 一番の記憶は
西方(富山方面)の空が真っ赤な炎に包まれた 爆撃の光景
あの大人たちの 悲痛な叫び とともに、
疎開してきたばかりの 東京の児の 脳裏から
消えることはなかった。今も。


東京から入善へ
入善から東京へと(そうそう 直江津で乗り換えてた)


二〇一〇年代までの間に 無人駅となった駅を
数えている 脳天気だから
この先 転居はあっても 東京ではない
あるとすれば(雨なのに青い空の、
あそこだろう。