遙かなる透明という幻影の言語を尋ねて彷徨う。

現代詩および短詩系文学(短歌・俳句)を尋ねて。〔言葉〕まかせの〔脚〕まかせ!非日常の風に吹かれる旅の果てまで。

現代詩「空虚無限」

2010-08-26 | 現代詩作品
空虚無限



人知でははかりしれない、距離をおもう 
   底知れぬ無能さに、
 真っ青な空が、霊媒の 白い雲を引きさく
初夏
の、
埃のなかの 
本棚は 死後の物語で 埋めつくされている。


測定術にたけた
 村の匿名、山田なにがしは、
   天に近い 露天の風呂で
         人体の観察を おこたらず、
  雨雲の距離を はかっている。
一体化した私と、他者の
 無限の距離を どうおしはかるのか
   刷りガラスのむこう うしろめたい星雲のガスに曇る
美しいつきひ、
哀しいつきひ、
   あれこれ言葉を入れかえて、混沌をたもつ


村の匿名、山田なにがしは
  不治という 官吏の冠履に
背をむけ、観光客を相手の 今朝は、
   黒薙には まだ顔をみせていない。
 昨日は 天に近い 露天風呂に 愛犬を連れてきた 
男とすれちがう。汗まで 拭き取られるほど 透きとおっていた
   昨年の 遭難者かと、振りむく。


そこには 高山桔梗が、空を背景に
    紫いろに匂いたつ。
  哀しい雄姿、もっと素直な 観光客であれば 
みえるものがちがうかもしれず ここからはみえない
  地獄谷の 血のいろまでを 想像する。


私と 他者との、
    無限の距離を
  推しはかることはできなくて、
時間を 産みおとした
   人間という
空間への 生命力の筋トレマシーンが この黒薙温泉のどこかに隠されていそうで
朝は霧の中に
佇む。
  

村の匿名、山田なにがしの
      正体もしらないままで、
   夢から下山する。心のこりは、
黒薙温泉が縄張りの 
   退屈をかこつ 幽霊なら わかってくれるか。