遙かなる透明という幻影の言語を尋ねて彷徨う。

現代詩および短詩系文学(短歌・俳句)を尋ねて。〔言葉〕まかせの〔脚〕まかせ!非日常の風に吹かれる旅の果てまで。

現代詩「珠玉」

2010-08-12 | 現代詩作品
珠玉



つぐみの
囀りが
混入している
古いテープの背中の文字が
英語か、
落語か、
読めないからと
背中の彫りものに聞いても
たぶん無駄だよ。

戦後まもなくの頃に
雑音まじりのラジオから
いきなり米軍二三三隊吹奏楽隊が流れ
笈田敏夫が新倉美子が水島早苗が黒田美治らが流れて
落語が好きだったという
彼の祖父さんは
耳栓を買いに走ったそうだよ。

走りは、痴呆症を認知症と呼び換えた
つぶやきとも違って
愚痴も
啖呵も
懐かしい下町のべらんめい調でさえ 
雑音まじりのラジオに
負ける訳にはいかねぇってんで、
雑音の軋轢や
苦しい場面に出くわしながらも
猿まねじゃねえ
猿楽の美の歴史から日々遠くなるのが、わびしいわけでも
ねえんだって、聞いたよ。

ただ胸のすく啖呵こそ
朦朧を否定すると信じた、彼の
祖父さんの
珠玉の囀り、それがあの
浪曲という、
とても懐かしい宿酔のテープ
見つからないとわかっていながらも
さがしている。さがすことこそ
肝心なんだ、と。



*台風が来そうだとテレビでは注意を呼びかけています。九州地方は大変でしたね。
今日は一日、注意しないと活けないようで、出も明日からお盆だし、
ばたばたしそうです。