遙かなる透明という幻影の言語を尋ねて彷徨う。

現代詩および短詩系文学(短歌・俳句)を尋ねて。〔言葉〕まかせの〔脚〕まかせ!非日常の風に吹かれる旅の果てまで。

現代詩「水府まで」

2010-08-01 | 現代詩作品
水府まで



行く先もたしかめず
切符をにぎり
山をくぐり
谷をくぐって
あいまいな不安や恐怖に追いかけられる
事実であろうと、なかろうと
乗り合わせた人びとの
命運までは思いいたらない
それは
荒れ野にはじめてレールを引いた人のことなど
おもいいたらないのに似ているか

(ぼくの拙いことばでは、
(あなたに届くはずがない

車内では
遺失物と区別がつかない
行旅死亡人と名付けた
無縁な人々が
死んでなおその先の世界で生き直すための
詩の道ってどこにあるのか
ついの栖とは
他人に見えない、あるいは
見せたりしない
無意識の自己のさみしさは
民俗資料館のめぐりに蔓延する蔦に等しくないか

金沢発上野行きの
夜行列車「北陸」「能登」が
静かに冥土に至り
帰郷できなくなった新生ふるさと喪失者たちは
純情な文学のように泪にくれた
それもつかの間、
動画に明け暮れて、ついに作家だと思いこむ深い負傷
郷土という特権的な幽霊の水府
泪の種子の発火点から風媒花のように飛び散り
いつか地中ふかく根を張りはじめる
不安な花も咲く日があるか

(ぼくの拙いことばでは、
(あなたに届くはずがない

それどころか
パッケージ旅行ではない
個人の幸福度を
追求するにはわがままでなければうまくいかないからと
行く先知らずで
とりかえしのつかない支線の乗り換えは
行旅死亡人の
悲運な生涯となんら変わらないだろう
その泪の孤立化
その泪という水平線化は、
いったい
どこで断ち切ることが出来るのだろう