遙かなる透明という幻影の言語を尋ねて彷徨う。

現代詩および短詩系文学(短歌・俳句)を尋ねて。〔言葉〕まかせの〔脚〕まかせ!非日常の風に吹かれる旅の果てまで。

現代詩「すずなり」

2010-10-24 | 現代詩作品
すずなり



一瞬、構内の桜を散らして
六十年前の列車がプラットホームを
通過する、夢のへりで
男は戦後の幻影をおもいだしていた
目の前を
今にもこぼれ落ちそうな
すずなりのリュックサックをかついだ
亡霊がぼうぼうと通過していく


戦後の夢を乗せた
古い列車の煙にまみれ
はち切れそうなリュックサックを
背おわされた孤児たちもいただろう
夕日の海へと続く
線路の向こう
すずなりの悲鳴を乗せて発車した
希望は、真っ黒い煙のほかにあとかたもない


今も孤児たちの
汚れた顔のまぶしさ
男のうすれる記憶が桜になる