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これまた春先に読んでいたのにレヴューが遅くなってしまった。
この春中学に入った娘に何かお勧めの本はないか、と聞かれて頭に浮かんだのがこの本だった。
またまた重松清。
ただ、まだ自分自身が読んでいなかったので、当然ながら読んでもいないのに勧めるわけにもいかない、と読み始めた。
連作の形式を取った重松清得意の短編集である。
まずはこの作品中のシンボリックな存在でもある恵美の交通事故という、
この連作集のなかでさまざまなトリガーの役割を果たすエピソードを扱った「あいあい傘」。
友達が下校中の目の前で交通事故にあって不自由な体になる。まだ小学校に通う子どもたちにとっては受け止めるには余りある出来事だろう。
一生松葉杖の生活を余儀なくされた恵美の心に事故は深い傷となって刻まれるが、
同時に彼女を取り巻く友達もそれをどう受け止めていいのか分からない。
子どもたちも自分ではコントロールできない形で反応してしまう。
無理もない。「今なら分かる」。
物語は恵美の弟、文彦-「ブンちゃん」と基哉-「モト」の友情が育っていく過程をもうひとつの軸として展開していく。
勉強も出来てスポーツも万能な二人はライバルとしてお互いを高めあいながら友情を築いていく。
お互いに相手を尊重しながらも、どこかに多少の違和感を抱えている・・・。
恵美やブンちゃんを取り巻くクラスメートたちが次々に登場して、そして友達との距離を計りあぐねて、迷い傷つく。
誰もが通ってきた道だと思う。
事故を機にクラスメートから心を閉ざしてしまい、常にアイロニカルな態度を取り続ける恵美は、
重い病のため入退院を繰り返すためにクラスでは孤立しがちな由香ちゃんと寄り添うように学校生活を送る。
この恵美と由香ちゃんとのもどかしくも切ない友情が三つ目の軸だろう。
「友だち」。今となってはこの響きにある種の衒いとまぶしさを感じずにはいられない。
友だちは、自分を映す鏡だと思う。私は友だちから跳ね返ってくる自分をみるといつもある種の劣等感や自分の心の中の醜さに思い当たる。
そのことに少し傷ついたりもする。
友だちという人間関係は時としてとても痛みを伴うものなのだと思う。
共感したいのにいつも共感してくれるとは限らない友だち。
それでも親兄弟ではなく、自分の力で切り開いて築き上げた友だちという人間関係を私たちは欲する。
それは月並みだけれども、人間というのはやはりひとりでは生きてはいけないからなのか。
「一生忘れない友だちが、一人、いればいい」。そう、一人でいいのだ。