江戸の妖怪、怪奇、怪談、奇談

江戸時代を中心とした、面白い話を、探して、紹介します。

『浪華奇談』怪異之部 5.狐和歌を感ず

2024-03-04 20:01:49 | キツネ、タヌキ、ムジナ、その他動物、霊獣
『浪華奇談』怪異之部 5.狐和歌を感ず
              2024.3

大坂に近い同国の平野(大阪市平野区)の郷に道具屋藤八と言う翁(おきな)がいた。
家業のいとまには、折々和歌を詠じて楽しみとしていた。
雅号を好古斎と言った。

かって和州(大和:奈良県)へ行った時に狐火を見て、
 きつね(狐)火は 夜ばかりなりは かなし(哀し)や
   人のほのふ(炎)は 昼ももへ(燃え)けり

このように詠じて、その後平野へ帰宅した。

ある日、尼が一人で入って来て、好古に対面した。
そして、先日の狐火の歌を書いて下さい、と言った。
藤八は、即座に書き付けてあたえると、
「かたじけない」と厚く礼の言葉をのべた。
そして、戸外へ出たが、又引返して、
「犬がひどく吼え付くので、追い退けて下され。」
と言った。
さっそく大を追いはらってやると、足早に帰ったと見えたが、たちまちに、姿が見えなくなった。

『浪華奇談』怪異之部 4.蝦蟇(がま)

2024-03-03 19:59:49 | キツネ、タヌキ、ムジナ、その他動物、霊獣
『浪華奇談』怪異之部 4.蝦蟇(がま)
           2024.3
蝦蟇の秘術


お盆の最中に、玉造り伊勢町(大阪市東区)の武家の縁側に乾菓子(ひがし)を盛り置いてあった。
しかし、風もないのに自然と前の植え込みの方へ飛んで行った。
家内の人が、これを見てあやしみ、ひそかに菓子の行末を見た。
すると庭に大きな蝦蛙(がまがえる)がいて、いながら口を開き、菓子を喰っていた。

これは、煉気(れんき)の術と言って、蝦蟇(がまがえる)だけではなく、蟒蛇(うわばみ)などが居ながら獣を引き寄せて飲み込むのも同じである。

あるいは、鴨居の上を行く鼠を、下にいる猫が白眼で落して取るのも似た事である。
       

横手の白いカラス  「一話一言補遺 」 蜀山人全集

2024-03-02 20:14:27 | キツネ、タヌキ、ムジナ、その他動物、霊獣

横手の白いカラス
          2024.3

羽州(出羽:山形県)横手の城は、佐竹家の家臣の戸村氏が守っている。
城中に二羽の白い烏がいた。長年棲んでいて、地元の人はよく知っていた。

城下の酒屋に、ある時、農夫が白い烏を持ってきた。
酒屋にいた者達は、みな珍しがった。
農夫は、興に乗って、「白い烏は、この城下には、すこし多くいる。私たちが、山で仕事をする時は、白い烏は、いつも見ているので、珍しいものではない。
ただ平日は、高い樹の上のみにいるのを見かけます。
これは、たまたま近くにいたので、捕まえることが出来た。

酒屋の亭主は、これを聞いて、
「今日、白い烏を見るのは、珍しいことです。百姓の家で飼っても、なにも益がないでしょうから、私どもに下さい。
そうすれば、見物に来る人も多いでしょうから、お酒も多く売れるでしょう。」
と言った。
農夫は、それならば、とこの白い烏を亭主に与えた。
それから、この烏を見ようと、酒を飲みに来る人が増えて、日毎ににぎわった。
酒屋はおおいに儲かって喜んでいたが、少しして烏は死んでしまった。
それで、酒を買いに来る人も減ったそうである。


「一話一言補遺 」 蜀山人全集 より


『浪華奇談』怪異之部 3.龍巻(たつまき)

2024-03-02 19:57:17 | キツネ、タヌキ、ムジナ、その他動物、霊獣
『浪華奇談』怪異之部 3.龍巻(たつまき)
                  2024.3
龍は、悪臭を嫌う
                 

去る文化十一年(1814年)八月、私は、難波から西の方へ船で行った。
ふと北の方を見ると、黒雲の一群が私が乗ってる船の方へ降りて来た。
船頭があわただしく指示して、
「すわ、龍巻なり。用意の物を火にいれよ。」と大声で、叫んだ。
船員たちは、ある物を取り出して火中に投じた。その悪臭は、ひどかったが、かの雲気が今や船に迫ると見えていたが、たちまちに東方へ走り去った。
それて初めて平安になった。

乗合の旅人が船頭にそのわけを尋ねると、船頭がこう言った。
「只今の黒雲は、龍巻と言うもので、龍が上を往き来きしているものです。それが、船のあたりへ近づく時は、いかなる大きな船でも、空中に釣り揚げられる事が、しばしばあります。
人の毛髪を焼くと悪臭がします。龍は、神のような物でして、この臭気を嫌って逃げ去るものです。」と。