読む日々

テーマばらばらの読書日記

風が見ていた

2013-09-13 | 
岸惠子「風が見ていた」



明治中期、静岡から、広い世界を見たくて「横浜村」へと出奔した、素封家の息子、速水辰吉。
横浜村への途上で会った、物の怪のような女の姿。

その女をどこかで探し求め生きた辰吉と、その娘・桃子と孫の衣子。

辰吉の生き方と、当時の横浜の様子、そしてパリへ旅に出る辰吉と、そんな辰吉と濃い関わりを持つフランス人。その中にユダヤ系の人も。

明治から昭和の敗戦までの、辰吉が主役の物語と、終戦後、フランス映画に日本で出演した縁でフランスへ旅立つ衣子が主役の物語の二本立てのような感じ。

衣子の、日本での恋と、その恋が破れてのち、祖父・辰吉と縁の深かったユダヤ人の兄弟の子孫と不思議な縁で結ばれ、マダムと呼ばれる生活の充実した様子、そして夫を亡くしてから、日本での恋人とのあくまでも結ばれない縁。

それらの成り行きは「輪舞」ラ・ロンド、という言葉で表され、それが一貫したテーマだったように思う。

女優さんの書く小説かあ、と思って読んだけど、まったく、普通に小説でした。
特に、衣子の映画出演の様子やフランスでの生活は、ご自身がモデルなんだろうな、と思え、細かい心理描写や状況描写がすごくよかったです。

ユダヤの歴史については、あくまでの衣子の立場から見た、「わからない人」が語る歴史なので、違和感もなく、うまいなあ、と感じました。


後半、なぜかじんわりとした涙が止まらず。
おもしろかったです。

満足度100

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