かまくらdeたんか 鹿取未放

馬場あき子の外国詠、渡辺松男のそれぞれの一首鑑賞。「かりん」鎌倉支部の記録です。毎日、更新しています。

渡辺松男『泡宇宙の蛙』の一首鑑賞 148

2022-10-24 20:21:38 | 短歌の鑑賞
  2022年度版 渡辺松男研究2の20・21(2019年3月実施)
     Ⅲ〈薬罐〉『泡宇宙の蛙』(1999年)P99~
     参加者:泉真帆、岡東和子、T・S、渡部慧子、鹿取未放
     レポーター:泉 真帆   司会と記録:鹿取未放


148 祖父に藁のおうごんいろのにおいせり歌などが土をばかにせしころ

     (レポート)
 藁の黄金色のにおいとは何と香ばしくてよいにおいだろう。大地や自然を愛し農業を誇りに思っていた祖父への敬意も感じられる。「歌などが土をばかにせしころ」はどのように取ろう。詩歌が風流や雅語を尊び、土臭いものを嫌った時代ということだろうか。(真帆) 

 渡辺松男は「かりん」2022年6月号に「福松の出奔」という一連の歌9首を発表している。愛知県に生まれ、出奔し、上野あたりで荷車をひいている姿が目撃されたりしたが……物語構成の歌である。一連から2首を引く。

福松こんど満州などにゆきしゆゑ財を一切失くして帰る
財のなきのつぽ 福松に背負はれて孫の松男の見てゐた世界

今回の一連は『寒気氾濫』や『泡宇宙の蛙』に出てくる祖父のイメージとは全く違うので、父方、母方のそれぞれの祖父の違いなのかもしれない。
 掲出歌、農業というものを歌が見下していた時代に、たくましく、無骨に農に生きていた祖父の賛歌のようだ。

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