だいずせんせいの持続性学入門

自立した持続可能な地域社会をつくるための対話の広場

加子母(2)

2008-12-13 22:19:59 | Weblog
 名古屋市地下鉄上前津駅の地下コンコースに名古屋市リサイクル推進センターというのがあり、その通路の壁の展示スペースの一つが加子母(かしも・岐阜県旧加子母村、現中津川市)のコーナーである。なぜこんなところにあるのか脈絡はわからないが、ともかくお近くの方はぜひわざわざ上前津で降りてご覧になっていただきたい。
 中学生の書いた文章が大きく掲げられている。「加子母が好きというだけでなく、加子母のよいところを自分が語れるようになりたい」。
 加子母の中学校の隣には「学びの森」があり、地元の林家の方を中心に、地域と学校が連携して森林の体験学習を行っている。このプログラムの目標は「加子母のことを20分語れるようになろう」である。5分や10分でなく、20分としているところに、加子母のオトナたちが教育というものをよくよく理解していることがわかる。目標を高く掲げるからこそ、子どもたちは成長できるのである。

 加子母の地域経済は林業と農業の両輪によって支えられている。加子母の産直住宅は東濃ひのきの材木と加子母の大工が全国どこへでも行って建てる。驚くのは、営業はいっさいなし、すべて口コミだということだ。これで20軒あまりの中小製材所もなりたっている。ようは加子母の中学生だけでなく、加子母のココロに触れた全国の人たちが「加子母のよいところを語」ってくれているのだ。

 加子母は持続可能な地域と言ってよい。私が加子母で学んだ持続可能な地域の条件とは、以下のとおりである。
1)産業が地域の自然資本(生態系)に支えられており、その持続可能な利用が生業としてなりたっている。
2)地域の問題を住民が主体となって解決できる社会関係資本(地域リーダーが輩出するということ)がしっかりしていて、外部からの援助をとりつけつつ、どのような分野の問題にも取り組むことができる。
3)地域全体で次世代を育てる意志とスキルをもつ。
4)他の地域の人々との対等・互恵な交流をすすめる意志とスキルをもつ。また外部からやってきて定住する人を暖かく迎え入れることができる。
 もちろん、加子母もさまざまな課題に直面している。日本全体が人口減少社会に入り経済が縮小する中で、その前途がきわめて多難であることは他の地域と何ら変わりはない。しかし2)によって、きっとよい方向に向かうのだろうと期待できる。すなわち、持続可能ということだ。

 星野道夫さんが著書の中で、アラスカのような大自然は、そこに行ってみることはできなくても、そういう自然がまだ同じこの地球の上に存在するということを知っているだけで価値があるものだ、と書いている。私は持続可能な地域というのは、将来の夢だと思っていた。ふけていく夜を感じながら、私は、自分が持ち場と考えている伊勢湾流域圏の中に加子母という持続可能な地域が実在していることを知って、大きな安心感を抱くことができる。自分のめざしていた方向がまちがっていなかったという思いとともに。

 先の中学生の文章は、森林を大切にしながら、自分は「加子母の木の根の一本になりたい」と結ばれている。そんなことを中学生が自分の言葉として文章に書き、それを大々的に名古屋で掲示をするオトナたち。ただならぬ地域である。この姿に深く学びたい。

 ・・・ということで、全国の地域づくりの現場で日々苦心(苦戦?)している皆さんとともに、加子母のことを学ぶ機会ができるとよいな、と思っています。「持続可能性の学校inかしも」でしょうか。いっしょに企画しませんか?
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3 コメント

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還るべき場所。 (toshi)
2008-12-14 07:44:46
高野先生、こんにちは。

僕も先日、加子母に連れて行っていただいて、なんとも言えず「安心感」を感じた一人です。

「こんなまち(むら)があってよかった。ほんとによかった。」
そう思いました。

名古屋に戻ってから、原ゆうみさんのCDをよく聴いています。

「かえろう かえろう 加子母へかえろう
 かえろう かえろう ふるさとへ」

この歌詞が、自分にも「かえろう」と呼びかけられているようで…。

「持続可能性の学校inかしも」、いいですね。
是非やりましょう!
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Unknown (やまにし)
2008-12-15 20:32:38
上前津、見ました!確かになぜここへ・・・?と思いましたが・・・。ほんと、加子母で合宿やりたいですね。写真部の合宿も加子母でやろうと思っているんですが・・・。
返信する
加子母 (ゼンダ)
2008-12-17 12:26:18
ありがとうございます。
加子母で暮らす私にとって、加子母のことをそんな風に思ってくださる方がいるということはとても嬉しいことです。
「加子母ってほんとに素敵なところなんだよ、すごいでしょ?とにかく一度来てみて下さい!」と言っておきながら
「すごい!」と言われると
「でも、もう一歩踏み込むと、やっぱりいろんな問題があって、行き詰まっているところもあって。加子母に来て6~7年では、まだまだ分からないことだらけでもあって。」
そんな思いがふつふつと沸いてきて不安になってしまうところもあるのです。
私は加子母という土地しか知らないけれど、高野先生をはじめ、いろんな地域のいろんな分野で活躍されている皆さんの知恵と力を貸していただきながら、加子母での営みが繋がっていけばと願っています。

ちなみに、上前津リサイクルセンターでの加子母の展示ですが、ちょうど2年前、「リサイクルセンター」と「エコパルなごや」がエコマネーのサテライト会場としてオープンした際に新設した、カウンター(木製)の材料を加子母から提供させていただいたのがご縁で、展示をさせていただいているのです。
それ以降も、エコパルなごやでのマンスリー企画展示(来年の2~3月予定)や、エコマネーのイベントで両施設には大変お世話になっているのです。
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