だいずせんせいの持続性学入門

自立した持続可能な地域社会をつくるための対話の広場

宮崎県綾町(あやちょう)(2)

2023-09-14 14:24:15 | Weblog

 今年6月に開設された綾オーガニックスクールを運営する合同会社アヤオーガニックワークスを訪問。代表の松井農園・松井道生さんにお話を伺った。松井さんは綾の自然生態系農業を牽引するリーダーであり、カリスマ的な存在と言っても良い。今年4月にG7の農業大臣会合が宮崎で開催された折には、ドイツの農業大臣が松井農園を視察し、農園の様子に感銘を受けたという。もともとはタバコ農家だったが、有機農業に転換、5haの田んぼと3haの畑を経営しており、そのうち3haについて有機JAS認定をとっているという。栽培品目はサツマイモ、トウモロコシ、ジャガイモ、ショウガ、ニンジン。これらは綾の有機農業の代表的な品目だ。さらにキャベツ、レタス、ブロッコリー、ホウレンソウなどの葉物に白ネギ。多品目栽培で、売り先はイオングループ、グリーンコープなどとの契約栽培が中心だ。

 キャベツは秋口に植え、しばらくは葉は虫の穴だらけになる。慣行栽培であれば殺虫剤を撒くところだ。しかしそのままにしておくと、季節が進めばその中心にキレイに結球したキャベツができる。松井さんは「虫がついたところを見ると何とも言えない気持ちになるから、もう畑に見に行かないことにした」と笑う。有機農産物の素晴らしさはとにかく食べてもらえば分かるという。

 松井さんは有機農業を志して綾にやってくる若者を研修生として受け入れるなどしてずっと支援してきた。しかし、支援しきれない例もあるという。新規就農者が農地を確保することは難しい。耕作されていない農地を借りるのだが、そういう農地は何か理由があって空いている場合が多く、もともと農作が難しい場所であることが多い。そういうところに経験のない新規就農者が入ってもうまく作物が育たず、結局諦めてまた綾を出ていくことになる。高い志を持って来てくれた若者たちがそういう結果に終わってしまうのは何としても避けたい。そのためには個々農家の努力では限界があり、町ぐるみで取り組む必要がある。ということで、綾町役場の事業として綾オーガニックスクールを開設し、その運営を合同会社アヤオーガニックワークスに集まったJAS認定農家4軒が担うという体制を作った。

 松井さんによれば、作物ができれば売り先はいくらでもあるという。今は有機の野菜が欲しいという注文に応えきれない状況だ。そこで、技術の習得は当然ながら、農家として独り立ちできるところまで確実に世話するためのスクールを作りたいと、松井さんが町に提案して実現したものだ。

 スクール生は今年一人入学。宮崎市に住む40代の男性。私たちが訪問した時、炎天下に汗びっしょりでニンジン畑の草刈り作業を行っていた。こんな炎天下でやらなくてもと思ったが、本人は「体を使うのが大好き」と笑っていた。頼もしい。

 入学金5万5千円に年間の授業料が66万円かかるが、スクールに入った段階で、農水省の就農準備金をもらえるようにする。スクールで学びながら月に12.5万円が支給される。また、必要であれば住むところも町が提供する。新規収納者受け入れ交流施設というのがあって、安い家賃で入居することができる。

 一年の研修の後に、新規就農者となる。松井さんは良い農地を少なくとも50a〜80aは世話したいという。畑で50aというのは一人でやる面積としては広くてたいへんだ。でもそれぐらいないと露地野菜で経営を成り立たせることはできないという。町には耕作放棄地が3haあるとのことで、これを必要に応じて町の負担で再生させる体制を作ろうとしている。必要な各種農業機械は町の農業機械利用組合から一日いくらで借りることができる。

 就農した暁には、農水省の経営開始資金の補助をもらえるようにする。これも月12.5万円が最長3年支給される。ただし、年齢は49歳以下、認定農家としての経営計画を農水省に認めてもらわなくてはならない。そのためには就農5年後に250万円の農業所得があるという計画が必要で、それをクリアするために周囲が支援することになる。

 有機農業を広げていきたい、そのために仲間を増やしたいという松井さんの熱い思いが町や農家を動かして実現したオーガニックスクール。松井さんはカリスマらしからぬ気さくでユーモアたっぷりの人柄だ。決してえらぶったりしていない。その日私たちが泊まった宿泊施設の食堂に、松井さんのインタビュー記事が掲示してあった。その言葉に地に足のついた実践者の思想が表現されていた。

 

「ユネスコ・エコパークで農業ができるってすごいことですよ。私はこの場所は地球からの借り物と思ってるんです。いずれは返すもの、決して汚してはならん土地。化学合成農薬を使っていたら土が汚れきってしまう。」

「野菜に虫がついてると嫌われますけど、本来はそれが自然の姿です。虫は洗えば落ちるけど、化学合成農薬は洗っても落ちません。もちろん出荷時には虫がつかんよう細心の注意を払います。でも、目に見えない農薬ならいいのかと、もう一度考えてほしい。それは地球環境を守る大きな一歩になると思います。」 

「地球をもとのきれいな状態に戻すにはオーガニック栽培しかないと思います。
余計なものを使わずに作ったものは人の心を豊かにします。
食にはそれだけの力がありますよ。」

 (https://www.topvalu.net/gurinai/organic/nousan/11/

 

 背筋が伸びる思いだ。持続可能な社会づくりというのは胸にSDGsのバッチをつけていればできるというものではない。それぞれの地域に松井さんのような実践者にして思想家がいて、それについていく人がいて、世界全体が持続可能になっていくものだと思う。

コメント    この記事についてブログを書く
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 宮崎県綾町(あやちょう)(1) | トップ | 巨大な悲劇を前に何ができるのか »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

Weblog」カテゴリの最新記事