だいずせんせいの持続性学入門

自立した持続可能な地域社会をつくるための対話の広場

巨大な悲劇を前に何ができるのか

2023-12-05 17:56:29 | Weblog

「あなたの命に価値などないと絶え間なく教えるこの世界にあって、互いに愛しあい、愛を教えること、それは・・・『多大な霊的抵抗』を必要とする。朝、目を覚まし、呼吸をすること、それが黒人にとってはすでに抵抗のひとつなのだ」 榎本空『それで君の声はどこにあるんだ? 黒人神学から学んだこと』岩波書店2022年、p.67。

香港、ミャンマー、ウクライナ、そしてイスラエルとガザ。巨大な不条理が人々の上に覆い被さり、多くの命が奪われ、悲しみが充満する。それらのニュースを目を皿のようにして検索して追いかけながら、日常の些事にイライラしたりささやかな喜びを感じてみたりする自分の姿を省みるとき、無力感というのか後ろめたさというのか、複雑な思いにさいなまれる。

もちろん自分が当事者となった不条理には勇気を持って戦いを挑むことはやってきた。例えば身近で森林を破壊して建設されることが計画されたメガソーラー。しかしそれは政府の政策や地域の有力者の行状をどれだけ批判しても逮捕されたり拷問されたり命を失う危険を何も感じなくてもすむ世界での話だ。

検索して行き当たる情報の断片に、ガザのパレスチナ人がむしろガザから出たがらない理由を解説していたものがあった。ガザに日常生活を暮らすことはそれ自体が抵抗なのだと。なぜならイスラエルはガザからパレスチナ人をすべて追い出してイスラエルの一部にしたがっているのだから。だから女性たちは爆弾が落ちてくる街で美容院に行って髪を整える。

日本でのイベントに招待されたガザのアーティストが、日本に到着して、これが生きるということなら、自分たちは生きた事がなかったと思うと。

Facebookで流れてきたイスラエル防衛軍の宣伝動画。若い夫婦に男の子が生まれる。その喜びがまぶしい。男の子は成長するにつれ、歳をとっていく夫婦にとってかけがえのない存在となる。大人になった男の子は徴兵されて軍隊に。そこで戦闘に参加して戦死する。夫婦の嘆き悲しむ姿が映し出される。これがイスラエル国民としてイスラエルに暮らす事なのだということを伝え鼓舞する動画だ。ホロコーストを二度と起こさせない。そのために命をかけてこの国を守る。これがイスラエルに暮らすことを選択したユダヤ人とその子供たち孫たちのミッションだ。

「ハマスはユダヤ人を皆殺しにしてイスラエルから追い払うことを目的とする組織なので、私たちはこの戦いに必ず勝たなければならないのです。」私の研究室にいるイスラエルの留学生の言葉だ。決して誇張ではない。彼女の友人の半分がガザで戦闘に参加しているという。彼女は遠い日本の地で眠れない夜を過ごしている。

これらの巨大な悲劇に関して遠くの安全な場所にいて何ができるのか。もちろんほぼ何もできない。私たちにできるのは、ただ理解した上で論評しないこと。そして遠くの地からではあるが連帯して「霊的抵抗」をすること。

でもどうやって?

私たちのミッションは持続可能な世界を作るということだ。それは戦争や抑圧のない平和で美しい世界のはずだ。宮澤賢治は100年前に「世界がぜんたい幸福にならないうちは個人の幸福はあり得ない」と書いた。この100年、人類は何も進歩していない事がわかる。持続可能な世界は、持続可能な小さなコミュニティを作る努力の総和でしかない。「個人の幸福はありえない」という痛みを胸に抱きつつ、目の前のささやかな努力を積み重ねる。あきらめず、たゆまず。その先にいつか「世界がぜんたい幸福に」なることを信じて。それは現実的な根拠のない一つの信仰だ。それが私たちが行える「霊的抵抗」なのではないだろうか。

コメント    この記事についてブログを書く
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 宮崎県綾町(あやちょう)(2) | トップ | 「日本国」崩壊に備えよう »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

Weblog」カテゴリの最新記事