だいずせんせいの持続性学入門

自立した持続可能な地域社会をつくるための対話の広場

ラクチンでいこう

2008-07-03 06:25:56 | Weblog


 日垣隆『ラクをしないと成果は出ない』大和書房2008年はなかなかおもしろい内容である。私は大学の教員になって十数年にしてこの境地が理解できるようになってきた。どんな仕事もひとりではできない。それに関わる人みんなが当事者として意欲をもって仕事をするようにできれば、ひとりひとりの負担は少なく、ストレスを下げるどころか、やればやるほど元気がでてくる、という状況をつくりだすことができる。そうなれば、成果はあとからついてくる。
 そのために大事なのは、ひとりでがんばらないことである。肩の力を抜いて、ラクにやること。「私はできる人です」というアピールをしない。「できる人」オーラをふりまくと、みんな「よろしくね」と言って逃げていくので、ますますひとりでがんばらなければならない状況に追い込まれる。むしろ「私はおっちょこちょいでへたくそです」というアピールをする。そうすると「とても見ておれない」と言って手をさしのべてくれる人が必ず現れる。

 私は教師としては、井上淳之典さんから伝授された「らくだメソッド」というのを、大学・大学院教育でも実践しようとしている。一言で言うと「教えない、教えてもらう教師」を標榜している。ラクチンである。まだ未熟者でつい「教えて」しまうことがあるが、最近はだいぶ板についてきた。

 普通は大学の先生といえば、指導生にうやうやしく「まずこれを読みなさい」と言って、論文の束を手渡す。学生はそれだけで圧倒されるのに、さらに指導教員から、こういうテーマでやりなさい、分からないことがあったら聞きにきなさい、などと言われてますますかしこまる。
 私はというと「こういうことが分からなくて困っているのだけれど、研究してボクに教えてくれない?」と言う。私が分からなくて困っていること、知りたいことはヤマのようにあるので、研究テーマにはことかかない。学生と対話しながら本人の好みや問題意識にあうテーマを必ず見つけ出すことができる。

 そうすると学生たちは目をキラキラさせて自分で論文を探しはじめる。読んでまとめて私に話して聞かせてくれる。分からないことがでてくると、私に聞いてもムダなことを知っているので、その道の専門家を捜し出して自分でコンタクトをとり、情報収集する。それをまたまとめて私に教えてくれる。ラクチンである。
 私の役割は芝居で言えば演出家だろう。芝居をするのはあくまで俳優。それを横でみながらコメントやアドバイスをして、俳優のよいところを引き出し、芝居をしあげていく。月1回のセミナーはまさに舞台稽古。学生のプレゼンを聞きながら、コメントするのが私の仕事である。演出家は舞台にはあがらない。あくまで裏方である。(誤解のないように言っておくと、このセミナーではへたな発表をすると厳しいコメントが飛び交う。)

 学部教育ではさらにラクチンなやり方をしている。名古屋大学では学部1年生の必修授業で基礎セミナーという少人数セミナーのがあり、私はこれを「地球環境塾」と称して担当している。これには私の研究室の学部4年生、大学院生にボランティアとして参画してもらっている。「今の暮らしの持続不可能性に気づき、どうしたら持続可能になるか考える」というのがセミナー全体のテーマであり、「食と農」、「森林」、「まちとすまい」という三つのグループに分かれてその中で対話しながら自分のテーマを設定し、そのことについて調べてひとりずつ発表するというものである。
 グループには先輩たちがいて、いろいろとアドバイスしてくれる。発表の準備に至っては、パワーポイントの作り方など、手取足取り指導してもらえる。いっしょに徹夜で準備につきあってくれることもある。
 私はほぼ何もすることがない。ラクチンである。私がラクをしている分、先輩たちがたいへんであるが、人間は教えることによってもっともよく学ぶのである。その貴重な機会を私は先輩の学生たちに提供している、と考えている(ちょっと強引か?!)。その私の気持ちを知ってか知らずか、彼らは本当によく後輩たちの面倒をみてくれる。
 その結果として、学生による授業評価では基礎セミナーの中で毎回トップクラスの成績をつけてもらえる。私は場を提供し、場の雰囲気を盛り上げているだけ。ラクチンにして成果を出すというわけだ。その成果は私の得点というのではなく、1年生も上級生もそして私も幸せな時間を過ごせてそれぞれに成長できる、ということだ。

 私の基礎セミナーで過ごした学生たちは学部はちがっても卒業までずっとおつきあいしていることがある。そういう集まりに呼ばれたりすると、ラクチンにしてこんなにうれしいことがあって、世の中のみなさんに申し訳ないくらい幸せな気持ちになるのである。

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