だいずせんせいの持続性学入門

自立した持続可能な地域社会をつくるための対話の広場

自然(じねん)に生きる(2)

2014-07-06 00:37:21 | Weblog

 私たちは、小学生のころから「計画的に行動しなさい」とたたきこまれて育った。意図し、計画し、実行する。最近ではPDCAサイクルと言って、行動したあとに反省して、それをまた次の行動に活かしなさい、ということがやかましく言われる。計画しその通りに行動すればよい結果が得られるとしたら、そのプロセスはマニュアル化できる。誰もがマニュアルどおりにやればうまくいくということになる。

 ところが、自然相手ではそうはいかない。自然農の実践家の川口由一氏は、自然農はマニュアル化できないと言う。その日、田畑にたたずみ、何をしたらよいのか、何をしてはいけないのか、その場その場で考え、判断するものだという。

 人間社会の営みも、人間が自然の一部であるとすれば、同じなのではないだろうか。

 以前、トロンボーンの個人レッスンを受けたことがある。まず先生から言われたことは「音は出すものではなく、出るものです」ということだった。頭で考え、頬や腹筋や息などの動きを意識しながら音を出すのでは、音楽にはならない。何度も練習を繰り返し、音が自然に出るようになってから、はじめて音楽づくりがスタートする。

 一つの組織が成果を挙げるには、強いリーダーシップが必要と言われるが、そうだろうか。リーダーひとりが何かを意図しても何もことは動かない。部下の一人一人が心からそのことに意義を感じ、自分の持ち場の仕事に打ち込むこみ、全体としてチームワークがとれたときに初めて成果は生まれる。とすれば、実際に現場での仕事をする人たちの思いを引き出し、一つの方向へと合意を引き出し、仕事を共同作業ができるような形に整えるのがリーダーの役割ではないだろうか。

 ワークショップの手法として私たちが開発したやり方に「千年ゼミ」がある。これは、「他の人の発言を否定しない」「誰も場を仕切らない」「結論を出さない」という三つのルールのもとに自由な対話を行うものである。これらのルールによって、参加者はのびのびと発言ができる。そうすると、しだいに話が深まっていって、本質的な問題や課題が明らかにされて共有され、それを解決するためのさまざまなアイデアが出て、結局、結論が出てしまうのである。結論は出すものではなく、出るものである。

 なにごとも自然(じねん)なやり方で進めていくのがよい理由は、その方が成果が挙がるからである。しかも参画する人がストレスなく、むしろそれぞれに満足して仕事ができ、そのことによってはじめて成果が出てくる構図になる。そのためには成果を急いではいけない。参画者の声をよくよく引き出すことに力を注ぐ必要がある。成果は出すものではなく、自然(じねん)に出るものである。

 このような組織運営を、私は「自然(じねん)のマネージメント」と呼んでいる。しかしこれもマニュアル化できない。その場その場の事態の進行に応じて、何を言うべきか、言わないべきか、前に進めるべきか、しばらく事態を放置して様子を見るべきか、考え判断するものである。うまくいくものなら、必要なときに必要な人が現れて、ことが進んでいく。そうでなければ、流れが向いていないということで、しばらく様子見である。こういう感覚は、経験をつんだ人の後ろでいっしょに活動しながら、肌感覚として身に着けるしかない。

一般に私たちは「待ち」の状態が苦手である。何もしていないように外から見られるし、その視線を内面化して、自分たち自身もそう思うからだ。しかし待つべき時は、しんぼう強く待つのが、自然(じねん)のマネージメントの勘所である。

 もう一つの勘所は、リーダーが何か困ったことや分からないことが出てきたとき、「自分は困っている、助けてほしい」と部下や参加者にそのまま投げかけるということである。そうすればみんながリーダーを助けてくれようとして、前向きに考えることによって、課題を乗り越える道筋が見えてくる。

 人間というのは本質的に学ぶのが好きだし、働くのが好きだ。自分が学んだことを他の人に教えるのも大好きである。特に共同作業の中である役割を与えられ、それを実践することに深い喜びを感じる生き物である。これは本来群れで生きてきたヒトのDNAに書いてあるのだと思う。そのような形で共同作業が行えるようになれば、自然(じねん)にことが進み、その中で一人一人が自然(じねん)に生きることができるようになる。

  誰もが自然(じねん)に生きられますように。それが私の願いであり、祈りである。

 

 

 

 

 

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