だいずせんせいの持続性学入門

自立した持続可能な地域社会をつくるための対話の広場

ながいながい森とすまいの話(その3)

2005-12-18 17:00:23 | Weblog

 日本のスギはかつて、戸建て住宅の柱としての需要があった。これが今日では、軽量鉄骨や2×4などの構法が広まって需要が少なくなった上に、軸組構法でも外材の集成材が主流となり、需要がほとんど失われてしまったのである。

 私が自分の家を建てる時に、材料の加工現場を見に行った。岐阜県美濃加茂市にあるセブン工業の集成材・プレカット工場である。広大な工場の片隅の2階にあるオフィスでは、何人かがコンピュータの端末に向かってCADで図面を引いていた。最近では、住宅メーカーから材料の図面が電子ファイルで届く。それを製材するための情報に加工して製材機へ送るのだ。

 工場に行ってみると、入り口にうずたかくラミナ材(貼り付ける前の板材)が積まれていた。カバーにはスウェーデンの文字がある。北欧材だ。これを貼り付ける集成材工場では、ほとんどオートメーションで、ラミナ材に接着材が塗られ、型に固定されて張り合わされる。固める工程ではプレスで押されたまま蒸気で温度を上げ、固まるのを待つ。30分くらいで固まるとのこと。
 次にプレカット工場に行った。製材機にはオフィスのコンピュータから加工の指示が届いており、作業員が材料を投入すれば、あとは、図面通りに穴あけや接合部の加工が行われる。製材機から出てきた材に、作業員が金具を取り付けていた。私の家の材料は、作業が終わって積み出しを待っている状態だった。

 この工場でびっくりしたのは、なんといっても作業が電子化されていることで、広い工場には作業員はまばらである。もうひとつは、その作業員がほとんどすべてフィリピン人であったことだ。夫婦で出稼ぎに来ているものが多いという。国内の工場にも「空洞化」の波がおしよせていることを実感した。

 さて、うずたかく積み上げられていたラミナ材であるが、あれが日本のスギでできないものであろうか。当時はそのような選択肢はなく、集成材なら北欧のホワイトウッドしかなかった。ラミナ材はあらかじめ人工乾燥され製材されたものである。スギは中心部の赤い部分と外側の白い部分の含水率が違うため、乾燥にともなう歪みが大きく、人工乾燥が難しいと聞いた。
 が、どう考えても、日本のスギの需要を復活するには、構造用の集成材しかないと思える。それでそのような取り組みについて調べてみた。
 岩手県気仙沼市にある三陸木材高次加工共同組合では1998年からスギとカラマツで構造用集成材の製造をはじめている。本格的なスギ集成材の生産としてはもっとも早いものではないだろうか。ホームページには加工プロセスが詳しく解説されている。
http://www.ginga.or.jp/~sew/koutei.html
 その取り組みを受けて、(社)日本林業経営者協会は2002年3月「スギの需要拡大に関する政策提言」を林野庁に提出しており、その中で、スギの需要拡大の「突破口はスギ集成材事業」であるとして、行政の研究や支援を求めている。
http://www.rinkeikyo.jp/no3-3.html
 広島県呉市に本社があり、各地に大規模な木材コンビナートを展開する中国木材株式会社は2004年に長崎県伊万里市に新たな工場を建設し、ベイマツと九州産スギを組み合わせた集成材「ハイブリッド・ビーム」の生産を始めた。
http://www.chugokumokuzai.co.jp/products/products3-4.html
 熊本県玉名郡菊水町にある玉名製材協業組合では、スギ間伐材100%の集成材の生産を始めている。
http://www.afc.go.jp/your-field/manage/2002-09-03/
スギの間伐材の問題のひとつに曲がり材がある。従来は加工が難しいため捨てられていた。しかし、集成材用のラミナであれば、板にさえ加工できれば少々曲がっていてもだいじょうぶだ。これを活用できるように、木の曲がりにあわせて板に加工する製材機を製材機メーカーと共同して開発した。これがCKS社の曲がり挽き製材機である。
http://www.ckschuki.co.jp/Curver21.htm
センサーで材の形状を計測し、材を送りながら自動的にバンドソーの角度を変化させるというハイテク製材機だ。このような技術開発もあり、ラミナの寸法長さ4m、厚さ30mm、幅120mmで外材ラミナと競争できる55,000円/立方メートル以下に製品価格を抑えるという。

 ということで、スギ集成材の生産に向けた取り組みが各地で本格化しようとしている。集成材の貼り合わせには大規模な施設が必要なので、おそらく山元では乾燥とラミナ材までの加工を行い、都市近郊の工場に運んで貼り合わせとプレカットを行うやり方がよいだろう。また、スギ集成材の実用化に向けて新しい技術開発が行われているのは頼もしい。今までうまくいかなかったのは何か問題があるはずで、それをクリアする努力なしには実現しない。いかにできないかを議論してもしようがない。どうできるようにするかを考えるべきだ。
 最近ではセブン工業でも、国産のスギやヒノキで集成材を作る選択肢もでてきたようで、ホームページには相談にのるとある。
http://www.seven-gr.co.jp/gluedlam/g-9.htm
 住宅メーカーでスギ集成材を使用することを全面にだして売り出しているところはまだないようであるが、今後はそういうところもでてくるだろう。ぜひこれから家を建てたりリフォームしたりをお考えの方には、「スギ集成材を使いたいのだが」、とメーカーに相談していただきたいところである。今後の展開に大いに期待したい。
(つづく)
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