だいずせんせいの持続性学入門

自立した持続可能な地域社会をつくるための対話の広場

洞爺湖サミット:日本外交の目覚め

2008-07-13 11:20:34 | Weblog

 洞爺湖サミットが開催された。メディアでは、ホスト国でありながら福田首相の指導力は発揮できなかったとか、お祭りさわぎだったとか、日本政府にとっては否定的な伝え方が主流のようである。私の見方は正反対である。これまでまるでアメリカの属国のように独自の主張がほとんどない非主体的外交で有名だった日本政府が、目が覚めたかのような外交的成功を収めたと思う。持続可能な世界をつくるという観点からすればより悪い方向にである。

 今回の先進国サミットはポスト京都議定書の枠組みをどうするか、そのレールを敷く上できわめて重要なタイミングで開催された。京都議定書は先進国の二酸化炭素をはじめとする温室効果ガス排出削減目標を定めたもの。第一約束期間に入ったものの、まだ最終結果はでていない、という絶妙なタイミングである。国内だけでは目標達成は不可能と言われている日本が何か国際的な主導力を発揮するにはこれ以外にないチャンスである。京都議定書は日本にきわめて不利な内容だったと考える人々の怨念を、ポスト京都議定書で晴らす絶好のタイミングだ。

 今回のサミットの気候変動分野での合意のポイントは以下の三つである。①2050年までに世界全体の排出量50%減をかかげた。②セクター別アプローチを認知した。③原子力をクリーン・エネルギーと位置づけ、温暖化対策としてこれを推進することをかかげた。どれも日本政府独自の提案であり、見事にそれを先進国間の合意にまでもっていったのである。

 2050年までに世界の温室効果ガス排出量半減を掲げたことは歓迎すべき内容と思う。しかしその一方で、セクター別アプローチを導入するというのは矛盾している。セクター別アプローチとは電力とかセメント生産とか、二酸化炭素をたくさん排出する産業分野別にエネルギー利用効率を上げるという形の目標設定をする、ということである。効率を上げるというのは、同じ量の生産をするのに投入するエネルギー量を減らすよう努力するという意味である。ということは、効率上昇があっても生産量そのものが増大すれば、効率上昇の効果を帳消しにして、排出量は増えることも認める、ということである。
 日本政府は国内の自治体や産業界向けにもこのようなアプローチを推奨しており、経済成長は必要なので当面は排出量が増えてもよい、効率を上昇させることで世界に向けて説明をしよう、という方針のようである。それでずっと先でよく見えない2050年の目標として半減を掲げておけばよい、ということだ。問題の先送りとも言える。

 私がもっとも重視しているのが、原子力の取り扱いである。京都会議ではCDM(クリーン開発メカニズム。途上国の省エネや効率化等に対して先進国が援助したならば、その分は援助した先進国側の排出量削減にカウントするというもの。)に原子力を入れようというのが日本政府の主張であったが、さすがに認められなかった。準備不足だったのである。それでポスト京都議定書のCDMに原子力を組み込むことは日本政府の悲願なのであろう。
 国内では、この間日本政府はきわめて精力的な世論作りの努力をやってきた。原子力関連のPR団体がいっせいに温暖化防止キャンペーンに取り組み、温暖化防止は自然エネルギーと原子力で、とPRしてきた。これはかなり成功していると私はみている。私が市民向けの講演をやると、質疑の時間にそのとおりの主張をされる方が必ずおられる。
 国際的にも精力的に動き、昨年秋のアジア・太平洋首脳会議でなにかとってつけたような印象のある気候変動問題の合意をとりつけ、その主要な内容がこの地域における原子力の推進とそれに対する日本の積極的な役割の強調だった。これは今回の先進国サミットの露払いであったと思う。

 化石燃料も原子力も、ともに持続不可能なエネルギーである。地球温暖化とは、世界の持続不可能性という問題の一つであって、それだけとりだして解決できるものではない、というのが私の理解だ。
 原子力発電は確かに同じエネルギー生産量で二酸化炭素排出量は火力発電所に比べて圧倒的に少ないが、他の発電方式では絶対にでず、その処分がきわめてやっかいな放射性廃棄物を排出するのである。また、高速増殖炉が実用化されない限り、天然ウランを軽水炉で燃やすだけでは、すべての天然ウランから生産されるエネルギーは石油全体のエネルギー量よりも少ない。そもそもあまり多くを期待できないエネルギーなのだ。

 私が原子力発電をすすめない理由はたくさんがあるが、その一つは、原子力発電所の運転(定期検査)において作業員の放射線被曝が避けられないということだ。労働安全衛生法では、年間50mSv(ミリシーベルト)という量の放射線被曝まで認められている。一方、原子力発電所で作業していた人が被曝が原因とみられる白血病で亡くなった場合、年間5mSvを超えて被曝をしていた場合には労働基準監督署は労災を認定するのである。つまり、法律に基づいて原子力発電所を運転している場合にも、作業員の皆さんの死のリスクが避けられないということだ。
 私たちが日々の暮らしで使っている電気は、そうまでして使うような使い方であろうか。私はそんな電気は使いたくない。もし原子力発電所を止めるので、電力供給は3割減になりますと言われたら、私は喜んで省エネしたい。

 そのようなエネルギーを「クリーン・エネルギー」と位置づけて、「環境のために原子力を推進」するとは、厚顔無恥もはなはだしい。今回の合意では「クリーン・エネルギー」の研究開発にG8全体で年間百億ドルの政府支出をすることを宣言しているのである。
 このようなことを周到に国内外での世論作りをやって先進国間の合意にまで持って行った日本政府の手腕は高く「評価」されよう。洞爺湖サミットは日本外交の勝利。そして持続可能な世界をつくるという人類共通の目標からすれば大きな敗北である。
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2 コメント

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主張は簡潔に (いさぎよし)
2008-07-16 12:34:26
目覚しい「外交的成功」に引かれて、拝読いたしましたが、批判ならそれらしく書き出して欲しいと思います。関心を引くだけの目的での表現は、不快です。
ご祝儀のような合意が、日本の外交的成功なのでしょうか?
終了後の会見で「現状の半減」と言うのなら、宣言に明記すべきでした。
逆説的な表現は、人を欺くものですから注意して読まなければならず、嫌いですから再訪は致しません。
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文章を読む能力 (まったく潔くない)
2008-07-20 20:35:50
上記コメントのいさぎよしさん。
文章を読む能力が不足のようですね。
己の解読力の無さを把握する必要があるかと感じますよ。
好き嫌いで判断するようでは、すべて二面性を持つであろう現実を捉えることは難しいと思います。
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