だいずせんせいの持続性学入門

自立した持続可能な地域社会をつくるための対話の広場

地球温暖化問題とはどういう問題なのか?(1)

2007-03-04 04:15:00 | Weblog
 地球温暖化によって何mも海水準が上昇するのでないとしたら、何が問題なのだろうか?何のためにわざわざ温暖化対策にとりくまなくてはならないのだろうか?これがよくわからないために、いくら政府が「チームマイナス6%」とか「クールビズ・ウォームビズ」と旗をふっても、いっこうに二酸化炭素排出削減の成果が現れない大きな理由だと私は思う。
 私は二酸化炭素排出量はすぐに減らさなくてはならないと思う。それは、この問題をひとつはエネルギー利用の持続不可能性の問題の一部ととらえるからであり、もうひとつは南北問題の一部ととらえるからだ。

 地球温暖化問題とはエネルギー問題である。下図をみていただきたい。これは私たちの暮らしで利用する物質が地球上のどこから来てどこに行くかという概念図である。物質はけっして無から生じないし、消えてなくならない(これを物理学では質量保存の法則という)。化石燃料は地下資源であり、これを大量に採取して商品(例えばガソリン)を生産し、それを消費する(車に入れて走らせる)と、廃棄物として二酸化炭素が発生し、それは地球の大気に蓄積される(「汚染」のタンク)。

 このやり方は持続不可能だ。つまり、地下資源がなくなったら打ち止めである。石油はもうすぐ生産のピークに達するだろう。生産量が減退していく局面では、必要な人すべてには行き渡らなくなるため、価格が上昇するだけでなく、誰がそれを手に入れるかをめぐって争いが起こる。世界はすでにそういう時代に入ってしまった。世界の国別石油埋蔵量第2位のイラクで世界最大の石油消費国アメリカが戦争を起こし、第5位のイランでも戦争が起きそうである(ちなみに第5位までの他の国はアメリカのほとんどいいなりになる国である)。
 石油の次の化石燃料として期待されているのが天然ガスである。これもすでにその覇権をめぐってなまぐさい争いが各地で発生している。東シナ海の天然ガス田は中国と日本のかかえる最大の外交問題のひとつだ。ロシア・サハリンで進んでいる天然ガス田開発では、石油メジャーとロシア政府との駆け引きが厳しくなり、プロジェクトがストップしている。いずれにせよ、石油と天然ガスは21世紀中にはほぼ掘り尽くしてしまうだろう。
 それにひきかえ大量の資源量が残っているのが石炭である。今後200年とか300年使えるぐらいの量がある。これももちろん枯渇していくのだが、一方で、これだけの石炭をすべて燃やして二酸化炭素として大気に放出すれば地球はかなり温暖化するだろう。温暖化がもっとも進行するのは、IPCCが<予測>の対象とする2100年時点ではなく、2200年とか2300年とかになるだろう。つまり、温暖化のピーク時にはIPCCによる<予測>を相当に上回る状態になると思われる。温暖化のピークを決めるのは石炭の使い方と言ってよい。石炭がまだ地下に眠っているのが分かっていても使わない、という社会にしなければならないと思う。

 つまり、地球温暖化問題とはエネルギー利用の持続不可能性の問題の一部としてとらえるべきだ。それは化石燃料の利用にかかわる問題で、ひとつは資源の枯渇の問題であり、それと対応した廃棄物の問題として温暖化問題がある。

 ところが、これらを切り離して地球温暖化問題だけをとりだすと、とんでもなく訳が分からない議論になるというのが、「地球温暖化対策として原子力をすすめよう」、という話である。よく出てくる図は、さまざまな発電方式について1kWh生産するのに排出される二酸化炭素量のグラフである(下図左)。石炭・石油・天然ガスの順番で二酸化炭素排出量はだんとつに多い。太陽光、風力などと同じ程度なのが原子力である。二酸化炭素排出を問題にするのならば、太陽光と風力を進めるのと同じ程度には原子力もすすめていくべきだ、という議論である。 
 温暖化問題をエネルギー利用の持続不可能性の問題の一部だと考えると、原子力もまさに持続不可能な利用形態だ。ウランは地下資源であり、軽水炉で燃やす限り、その総エネルギー生産量は石油の総量にはかなわない程度にしか資源量はない。一方、廃棄物問題として放射性廃棄物の問題がある。原子炉でウランを燃やすと、核分裂によってありとあらゆる放射性元素が生み出される。原子炉とは何万年(!)も特別な遮蔽容器に入れておかない限り人が近づけないほど危険なものをつくりだすパンドラの箱だ。
 最終的に放射性廃棄物をどこに処分するのか、世界中で明確な答えはまだない。地層深く埋設しようという計画であるが、少なくとも日本での実現はきわめて難しいだろう。一方で使用済み核燃料は日々生み出されている。日本の原子力発電所ではもう保管しておくプールが満杯になりそうで、そうなれば原子炉を止めざるを得ない状況だ。

 それで青森県六ヶ所村に再処理工場を作って、とにかくそちらに運びだそうということになっている。再処理とは使用済み核燃料からウランから生成されたプルトニウムをとりだすことを指す。とりだされたプルトニウムは5kgもあれば長崎型の原爆が一個作れる危険な物質だ(すでに日本は原爆数千発分(!)のプルトニウムを在庫しており、世界中から核武装しようとしていると疑われている)。
 高速増殖炉というものでプルトニウムを燃やせばたいへんなエネルギーをとりだすことができるが、この炉の開発は難しくすでに世界各国で開発計画は放棄された。日本でも「もんじゅ」という試験用の炉を作ったが、完成後すぐに事故を起こして止まったままである。どうがんばっても2050年までに実用化するめどはたっておらず、つまり石油の生産ピークには間に合わず、「石油代替エネルギー」という面目はたたないのである。
 それでプルサーマルといって、普通の軽水炉でプルトニウムを燃やそうという話になっているが、軽水炉で取り出せるエネルギーはたかが知れており、再処理を行うのに必要なエネルギー量とコストを考えるとばかげた話である。誰が考えてもそうであるが、放射性廃棄物の最終的な行き先のメドがたたない状況では、とにかく自転車操業をしなくてはいけないということだ。六ヶ所村には再処理をするという名目でしか使用済み核燃料を運び込めない。止まるとこけるのである。まさに持続不可能というべきである。

 1kWhあたりの二酸化炭素排出量の比較をするのであれば、その図のとなりに、1kWhあたりの放射性廃棄物の発生量を比較したグラフを示すべきなのだ(下図右)。もちろん原子力発電以外はゼロという自明なグラフになる。その二つが並んでいれば、化石燃料も原子力もエネルギー利用の持続不可能性の問題を抱えていることが分かり、「地球温暖化対策として原子力をすすめよう」という訳のわからない議論はでてこないはずだ。また二酸化炭素排出量というのは放射性廃棄物発生量と並んで、現在のエネルギー利用がいかに持続不可能かということを示す指標の一つととらえるべきだろう。

(二酸化炭素排出量は電力中央研究所、原子力発電による放射性廃棄物排出量は山名元氏の見積による。) 

 ではどうすればよいのか。地下資源を使う限り枯渇の問題を避けられないので、下図のように地下資源を使わなければよい。そうすれば必然的に廃棄物を貯めておく必要がなくなる。地球温暖化の問題も、放射性廃棄物の問題も、化石燃料やウランを利用しなければ自然に解消される。恥ずかしいくらい当たり前な話である。必要な資源は生態系からいただいて、発生した廃棄物はまた生態系にもどせばよい。エネルギーであれば直接太陽からのエネルギーを利用する太陽光発電や太陽熱利用、間接的に利用する風力、水力、バイオマスなどである。

 地球にふりそそぐ太陽光のエネルギーは膨大だ。そのごく一部であるバイオマスを考えると、現在化石燃料を燃やして人間が大気に出している炭素量は年間7Gt(ギガトン=十億トン)であるのに対し、地球上の植生が大気の二酸化炭素を吸収して有機物として固定し、それが枯葉や枯れ枝になった後、再び微生物に分解されて大気にもどる量は炭素量にしてざっと年間50Gtである。つまり微生物が分解しているものの15%ほどを微生物には申し訳ないが人間にやらせていただければ、化石燃料をすべて代替できる勘定になる。ここで排出される二酸化炭素は植物が大気から吸収したものが大気にかえっていくだけなので、温暖化にはまったく寄与しない。持続可能なエネルギー利用である。
 そんなことはできない、という議論は永遠に続けることができる。それにつきあっていても退屈なだけだ。大切なのは、どうしたらできるかを考えることだ。

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5 コメント

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Unknown (ozeki)
2007-03-05 11:01:05
 先生、ありがとうございます。

 地球温暖化問題の一つは、エネルギー問題。図も以前教えていただいた図ですね。懐かしい。

 南北問題は次回でしょうが、エネルギー問題については、「温暖化」という表現自体が、問題を的確に表していない感じですね。


>15%ほどを微生物には申し訳ないが人間にやらせて>いただければ、化石燃料をすべて代替できる勘定に>なる。

 その過程において、いかにエネルギーを得られる仕組みが作れるかということでしょうか。

>そんなことはできない、という議論は永遠に続ける>ことができる

 この文章は耳が痛いですね。私の周りにも、問題点、できない・難しい理由を並べる才能あふれる人が多いです。以前より、減ってはいますけれど。

 長期で物事を考えるべきどころ、やはり予算という「単年度」の思考にしばられてしまうのかもしれませんね。

 次回の南北問題も楽しみです。
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地球の変化を直に観測する方法 (塚本 和義)
2007-03-06 06:17:31
高野 様

いつもお世話になっております。
昨年の12月に名古屋大学でお会いした親水会の塚本和義です。身近な自然環境、たとえば、気温や風の方向や強さ、雨の量やPHを測定し、明らかに変わっていくと感じることが、素人でできるか教えてください。いくら地球温暖化だといわれても、自分でデータを取って数字で見ないと実感出来ません。一度詳しく教えて
頂ける機会をください。宜しく御願いします。
塚本 和義
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Kazuyoshi Tsukamoto

karetto@dream.ocn.ne.jp

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THANKS! (daizusensei)
2007-03-08 02:53:47
ozekiさま>
>15%ほどを微生物には申し訳ないが人間にやらせて>いただければ、化石燃料をすべて代替できる勘定に>なる。

> その過程において、いかにエネルギーを得られる>仕組みが作れるかということでしょうか。

バイオマスエネルギーがそれです。木材の間伐材・端材・廃材、生ゴミや屎尿などから薪、ペレット、メタンガス、エタノールなどを作ります。さとうきびプランテーションによるバイオエタノール生産もそうですが、これは食糧生産とのかねあいが難しいかも。

塚本さま>
>明らかに変わっていくと感じることが、素人でできるか教えてください。

これが難しいのが地球規模の環境問題がよくわからない一因でもあります。例えば今年は記録的な暖冬でしたが、これをもって現時点で地球温暖化であるとは言えません。地球温暖化がなくても異常気象はありますから。何十年かあとに、あれは地球温暖化の一部だったと確認されるということはありえますが。あとよく誤解されるのが、都市の温暖化です。これは地球温暖化とは無関係で、ヒートアイランドのせいです。
やや地球温暖化が見えるかもしれないのは、南で生息する蝶が北方まで分布を広げているとか、でしょうか。これも微妙というか、日本の中だけでは狭すぎで、もっと広域の変化の中で見ないといけないのですが。

そのうち記事にしますが、北極圏では素人でも目に見えて温暖化していることがわかるようです。ヒマラヤのブータンでは氷河が後退して水利用に困難がでてきているようです。温暖化の影響が感度よくあらわれるのはこういう地域ですね。私はこういう情報を丹念に集めるのがよいのではと思っています。

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お世話になります。 (宮川)
2007-03-12 19:38:24
お世話になります。豊丘の宮川です。

先生の記事を拝見させていただきました。

私も、地球温暖化は解決不可能と言ってるだけでなく、いかにして解決すべきか、考えていくべきだと思います。


ところで、今日本ではどのくらい、持続可能なエネルギー発電は普及されているのでしょうか?

また、そのエネルギー発電は効率よく使われているのですか?

是非、教えてください。




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THANKS! (daizusensei)
2007-03-15 20:58:12
宮川さま>自然エネルギーの利用はかなりの勢いで増えていますが、全体からみればまだほんのちょっぴりです。私も具体的な数字を調べてみますが、ご自身でも調べてみてはいかがでしょう。以下のHPをさぐってみると分かると思いますよ。
資源エネルギー庁
http://www.enecho.meti.go.jp/
環境エネルギー政策研究所
http://www.isep.or.jp/
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