惰天使ロック

原理的にはまったく自在な素人哲学

東浩紀の弁明

2011年03月19日 | げんなりしない倫理学へ
twitterだと以下が逆順に表示されて読みにくいので並べかえてみた。

「東京はさすがに安全だと思うが、専門家でもないし子供のことを考えるとその判断が正しいかどうか迷う、そしてそんな迷いを抱えて生活するのいやだから東京から離れる」。これを言い訳だと感じるのは、<他者の生命に責任をもつ>ことの重さに対して決定的に想像力が欠けている。

<自分の生命に責任をもつ>だけであれば、判断と行動は完全に一致する。自分の判断の責任が自分で取れるから。でも<他者の生命に責任をもつ>と、ときにそれは一致できなくなるんだよ。自分の判断の責任が他者に降りかかるんだから。これがわからないひとは、ぼくのツイート読まないほうがいい。

これは哲学的で倫理学的な問題です。専門用語でも語れる普遍的な問題です。子持ちがどうこうという話ではない。しかし子持ちのほうが思考実験ではなく体感しやすいとは思う。いずれにせよ、「おれ合理的に行動してるぜ!」みたいな頭悪いやつには、このことは理解できないですよ。

これはマジレスだけど、ぼくのツイートを人々が矛盾していると捉えるのもわからないではない。なぜなら、ぼくは一方で「東京は安全」といいながら、他方では「東京は危険かもと悩むのがいやだから逃げ出しただけ」と言っているから。

でもその矛盾は、いまのツイートで記したように、ぼくが自分と娘二人の生命に責任を取らされることで不可避に生じる。子供もつって要は自分視点と娘視点の二つを抱えなければならないということで、しかも娘視点なんて本当はわかるわけないから、どうしようもなく功利主義では解けない逆説が生じる。

この逆説は屁理屈じゃなくて、きわめてリアルな経験です。またそれは論理を感情が上回るという話ともちがう。それは非論理的というより二重論理的な状況。「事実に基づき合理的に行動」なんて要請は、人間がみな、自分の生命に、そしてそれのみに責任を取ればいいときだけに適用できるものなんです。

というのを連投したのは、ぼくはもともとこういう哲学とか倫理学の逆説こそが専門だったからです(ジャック・デリダという哲学者がかつてのぼくの専門)。他人の行動をすぐ「合理的じゃない」とか批判するひとは、自分が「合理性」についてどれほどのことを知っているのか、少し考えてみればいい。

……って感じ。これ以上わかりやすく言うのは不可能。こういう議論に学問的に関心のあるひとはデリダとかレヴィナスとか読むといいです。それがだれかはググってくれ。

(hazuma)

紹介するのが目的なので、ここで悪口を書こうとは思わない。また実際、ここに引用した限りでは総じてもっともな話だと思える。ただひとつだけツッコミを。デリダが専門の東センセイが「こういう・・・デリダとかレヴィナスとか」というのは当然といえば当然なのだが、しかし最初からこの2人を読んだって何がなんだかサッパリ判らないだろうと思う。デリダはともかく、レヴィナスはわたしの好きな哲学者のひとりだが、読んで判るから好きだというわけではないし。

強いて言えば別にこんな弁明はしなくてもいいのではないだろうか。文句言ってる連中は、またその文句を自身の心情の上では正当化できているとすれば、たいていの人は妻子がいようが何しようが仕事のために東京を離れるわけにはいかないし、妻子を預けられるような親類縁者の類もいなかったら、それはもう一家揃って東京に残っているしかない、そうしたことが楽々できる東センセイのご身分を、連中はやっかんで言っているわけである。

そのお気楽なご身分(だと連中は思っているか、そう見なしたいのだ)の人物が言行不一致の上に倫理的な正当化(不当性の否定)の屁理屈まで重ねていると聞いたら、そらまあ、火に油を注ぐことになりかねないわけである。一般に他人の行動を「合理的じゃない」と批判する人というのは、その行動が実は合理的でないことを批判したいわけでも何でもなくて、単に誰それを吊るし上げる絶好の口実がここにあるぞと宣言しているだけなのである。

●(追記)

俺が同じ立場だったら「いや、だって計画停電とか正直うざいし」と言って田舎の実家にしばらく転がり込んでいただろうと思う。

実際、ちょうど先週の今頃、JRが死んでたせいで泊まり込んだ会社のPCであれこれの報道を眺めながら、マジでそんな考えがアタマを過った。いま東京を離れると二度と戻って来れなくなりそうだと思えたから、その考えは直ちに却下せざるを得なかったけれども。
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