じいたんばあたん観察記

祖父母の介護を引き受けて気がつけば四年近くになる、30代女性の随筆。
「病も老いも介護も、幸福と両立する」

皮肉。…だけど、幸せ。

2005-09-15 15:57:46 | じいたんばあたん
ばあたんが入院して、四週間めに入った。


今はまだ、見舞いに行く間隔を
控えめにしなければならない時期で、

(今のばあたんにとっては、
 刺激をなるべく避けて静かに過ごすことと、
 病院に慣れて治療に移れる体制を整えることが
 最優先なのだ)
 
わたしとじいたんは、
毎週火曜日に、二人でばあたんを見舞うことにしている。

電車とバスを乗り継いで、片道1時間半以上かけて。


もうすぐ誕生日を迎え、また一つ年齢を重ねる
90代の我がじいたんにとって、決して楽な道のりではない。


それでもじいたんは、懇願する。

「たま、すまないけれども、
 おばあさんのところへ連れて行っておくれ。
 もうおじいさんは、一人では行くことが出来ないから」

…わたしひとりで見舞いに行ってくれるな、と哀願する。


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道中、じいたんとわたしは、お互いを気遣い合う。
なるべく、楽しく過ごせるように。

普段は決して行かないようなお店で食事をしたり、
花屋に寄ったり、
ちょっと道順を変えてみたり、
…それから、バスの窓から見える風景を
二人で眺めて、喜んでみたり。


それでも、やはり見舞いの後のじいたんは
たいてい、無言だったりするのだけど。



そういうときは、そっとしておく。


そして、頃合を見計らって、
小さかった頃のわたしに戻ってみる。

ちょっとめまいがするから、手をつないでって頼む。
薬を飲ませて、とベンチに座る。

美味しい食べ物やさんを、さがす。
とってもおなかが空いたよ、と言って。
あのパン食べてみたいよ、って、おねだりをして。


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前々回の見舞いの帰り道は、

「90超えた祖父と孫、ふたりきり」では
ふつう、決して、入らないような、
かなり渋いお店で夕食をとった。


基本的には焼き鳥がメインの居酒屋なのだけど、
手打ちのそばも食べさせてくれる、そんなお店。

店員さんは、ひとめで、わたしたちが
祖父と孫とわかったようで、
少しゆったりと、サービスしてくれた。


わたしが、おいしい、おいしい!と
あっという間に蕎麦をたいらげてしまうと、

「お前さん、もっともっと頼みなさい。
 お前さんが遠慮しているのは、おじいさんお見通しだよ」

お品書きを差し出して、とても嬉しそうに笑う。
さっきまでの淋しそうな表情は、そこにはない。


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介護を始めたころは
よく「舅と嫁」に、勘違いされていた、わたしたち。

今になって、やっと、こんなかたちで
「ごく普通の祖父と孫」に戻れる時間を持てる。

なんだか皮肉。

だけど。
とてもとても、幸せ。