じいたんばあたん観察記

祖父母の介護を引き受けて気がつけば四年近くになる、30代女性の随筆。
「病も老いも介護も、幸福と両立する」

皮肉。…だけど、幸せ。

2005-09-15 15:57:46 | じいたんばあたん
ばあたんが入院して、四週間めに入った。


今はまだ、見舞いに行く間隔を
控えめにしなければならない時期で、

(今のばあたんにとっては、
 刺激をなるべく避けて静かに過ごすことと、
 病院に慣れて治療に移れる体制を整えることが
 最優先なのだ)
 
わたしとじいたんは、
毎週火曜日に、二人でばあたんを見舞うことにしている。

電車とバスを乗り継いで、片道1時間半以上かけて。


もうすぐ誕生日を迎え、また一つ年齢を重ねる
90代の我がじいたんにとって、決して楽な道のりではない。


それでもじいたんは、懇願する。

「たま、すまないけれども、
 おばあさんのところへ連れて行っておくれ。
 もうおじいさんは、一人では行くことが出来ないから」

…わたしひとりで見舞いに行ってくれるな、と哀願する。


*****************************


道中、じいたんとわたしは、お互いを気遣い合う。
なるべく、楽しく過ごせるように。

普段は決して行かないようなお店で食事をしたり、
花屋に寄ったり、
ちょっと道順を変えてみたり、
…それから、バスの窓から見える風景を
二人で眺めて、喜んでみたり。


それでも、やはり見舞いの後のじいたんは
たいてい、無言だったりするのだけど。



そういうときは、そっとしておく。


そして、頃合を見計らって、
小さかった頃のわたしに戻ってみる。

ちょっとめまいがするから、手をつないでって頼む。
薬を飲ませて、とベンチに座る。

美味しい食べ物やさんを、さがす。
とってもおなかが空いたよ、と言って。
あのパン食べてみたいよ、って、おねだりをして。


*****************************


前々回の見舞いの帰り道は、

「90超えた祖父と孫、ふたりきり」では
ふつう、決して、入らないような、
かなり渋いお店で夕食をとった。


基本的には焼き鳥がメインの居酒屋なのだけど、
手打ちのそばも食べさせてくれる、そんなお店。

店員さんは、ひとめで、わたしたちが
祖父と孫とわかったようで、
少しゆったりと、サービスしてくれた。


わたしが、おいしい、おいしい!と
あっという間に蕎麦をたいらげてしまうと、

「お前さん、もっともっと頼みなさい。
 お前さんが遠慮しているのは、おじいさんお見通しだよ」

お品書きを差し出して、とても嬉しそうに笑う。
さっきまでの淋しそうな表情は、そこにはない。


*****************************


介護を始めたころは
よく「舅と嫁」に、勘違いされていた、わたしたち。

今になって、やっと、こんなかたちで
「ごく普通の祖父と孫」に戻れる時間を持てる。

なんだか皮肉。

だけど。
とてもとても、幸せ。

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4 コメント

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小さかった頃の (neko50)
2005-09-16 10:23:30
「そして、頃合を見計らって、

小さかった頃のわたしに戻ってみる。」

最近初孫を持って、孫というものの可愛さを実感しています。小さかった頃のたまさんに戻るというのは、おじい様もその頃に戻るということですね。

おじい様のうれしい気持、ちょっと判る気がしました。
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まるくなってゆく  (かささぎ)
2005-09-21 01:37:43
たまさん 今晩は^^ この記事(これに限らずたまさんの記事は殆どそうなのですが),何度も,日を改めて拝読致しております。



今夜この記事を読み終えて,ふと思い付いたのは「まるくなってゆく」というキイワードでした。

えーと あの…ですね。

「大団円」という言葉,在りますよね。あと「終わりよければ全て良し」。これらに近いニュアンスかもしれませんが。今までの経過がどうであれ,結果をまるく納めるように,結果がまるく収るように物事は粛々と進んでゆく・・・ そんなイメージを持ったのです。

なんだかずれているかもしれません・・・でも,そんなイメージが浮かんだのですよ。今夜は。





お祖母様 お祖父様 たまさん お三人ともが,どうぞ,おさまるところへおさまってゆきますように と願わずには居られません・・・
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祖父とふたりで>neko50さん (介護人たま)
2005-09-22 05:40:52
おっしゃるとおり、なのかもしれません。

祖父とわたし。

わたしは彼の初孫でした。

わたしがまず子供に戻って、そしてじいたんも一緒に、戻るんです。

じいたんが、どれだけ私を慈しんでくれたか、喜ばせてくれたか、心に残る愛情をそそいでくれたか、そのことを祖父に思い出して欲しくて。

少しでも自信と存在価値を改めて確認し、そして私に慕われていることを思い出して欲しくて。

少しは、祖父の心を優しく包めていればいいのだけど…
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そういうラストが>かささぎさん (介護人たま)
2005-09-22 05:43:13
「そういうラストが、待っている」そう信じて、今の幸せをかみしめながら、前へ向かって進んでいけたら、いいなぁ。



みんなで、幸せでありたいです。

だれが不幸せであっても、私、幸せになれないから…
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