第86話 便利な言い訳

2005年05月29日 14時08分44秒 | Weblog

「忙しい」、心ない言葉である。

就職して…私もこの言葉を都合よく使っていた時期がある。
友人からの誘いを断る時、「ごめんなさい仕事なの…今忙しい時期で」など。
「大変なんだね…落ち着いたら連絡頂戴。体、壊さないようにね」
「仕事」とか「残業」とか…やむをえない理由をふりかざしては同情までかっていた。
嘘ではなかった。事実、残業三昧だった。でも…
今思えば、働き始めの頃は「残業で」という言葉に相手に対する申し訳のなさに
ある種「社会人になった私」の格好よさを感じていたような気がする。(馬鹿)
しばらくすると断りのメールを打ちながら気持ちに嘆きが入ってくる。
「どうして私ばかり?配属先が違うだけで、こんなにも退社時間に差があるの?
辞令を受けた時の運がこうも人生を変えるものなの?」
その間、友人はずっと待ってくれていた。会うときは私の都合のいい日を優先してくれた。
気づいた友人達の気持ちが嬉しく、彼女たちの存在が心にしみてくる。
連絡に心から感謝しつつも、会いたくても会えないのだ。
久しぶりに会う友人に、私の今いる暗い世界に巻き込みたくない。(第53~56話参照)
「今、忙しくて…」抱える悩みを打ち明けずにいることを選択した。
今、思えばきっとあの頃どんなに私が暗い顔をしていても、友人は私の話を真剣にきき、
どんなことがあっても私の味方だと、私が一人ではないことを教えてくれたかもしれない。
私も友人を思ってのことだったが、我慢せず甘えればよかったと思う。(目指せ、甘え上手)

その時々の気持ちは様々だったが、「忙しい」という言葉で全て片づけていた…便利だった。
私は、その後、恋をする。片想い。会いたい。
私から送ったメール、彼からの返信はいつも「忙しい」。
毎年恒例の繁忙期を迎え、帰宅して食べて顔を洗ったりで、いつも12時近くになった。
今の私の生活より忙しい…?
そんな彼に対し、私は決して忙しさを持ち出さなかった。(私の片想いだから当たり前なんですけど~)
毎日毎日、自分の想いだけで育てる植物性恋愛。連絡を待ちながら、1年2年と過ぎていく。
やがて来る限界。大きくふくらんでいく気持ち、枯れない前に伝えたい。(たとえふられるとわかっていても…)
結局、彼からの返信は「会う暇がない」だった。たったの5分も…割く時間がないと。
うまく昇華できなかった気持ちは徐々に腐り、時間をかけてゆっくり土にかえっていく。
今は茶色く枯れた芽が細々と横たわるばかりかな。

友人からメールが届く。「相変わらず忙しい?…また落ち着いたら遊びに来てな」
私は携帯を手に今までに自分のしてきたことを心から詫びた。
神様っているんだ…便利な言葉に手痛くしっぺ返しされて初めてわかるなんて…
以後、私はできる限り、「忙しい」という言葉だけで片づけないようにしている。
物理的な時間が絡む時は、どうしてなのか理由を添えてお断りするようにしている。
心理的な悩みが絡む時は、たいがい思考することに忙しいのだから、まずその誘いを受けてみる。
行動することが気分転換になったり、何かの拍子に答えが閃いたり、
例え見つからなくとも一人で悩む時間はその後いくらでもあるのだから慌てることはない。

土にかえった気持ちを栄養に、心ある返信を心がけている。


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