発見記録

フランスの歴史と文学

東野芳明とマンディアルグ

2005-12-26 11:18:26 | インポート

雑誌「海」昭和469月号(マンディアルグ特集)には東野芳明の『オブジェと想像力のドラマ』が掲載されている。「マンディアルグについてぼくはほとんど語る資格がない」と書き出し、洋書店でも「白ちゃけたあのフランス文学の本の棚はフンといって通り過ぎる」といきなり悪口。

マンディアルグのSugaï (?Le Musée de poche?, 1960)にふれ、菅井汲ら「抽象絵画のラショーモン」世代が日本を売物にせざるを得なかったことへの苦い思いを交えながら、異国趣味ではない菅井の「深い日本」に讃辞を贈るマンディアルグの「微妙なレトリック」には「当時のパリにおける、ジャポネズリーへの反撥と共感が絡み合った複雑な心情」を読みとる。

続く「ざっと拾い読み」したDeuxième Belvédère(『見晴台 第2集』)の紹介では「現代美術の作品の中に、動物、植物、鉱物、あるいは水、火、土、空気の四元素を見出して分析しているところが眼についた。詳しくは分らないが、一種の物性論的なイメージが、マンディアルグの特徴のひとつなのだろうか」

同じ特集の種村季弘『異物と結晶-「ボマルツォの怪物」について』に比べれば当然熱の入れ方は違うが、二つのエルンスト論を要約し、「土」のデュビュッフェ、「鉄」の作家ブーリ(Alberto Burri )、ロベール・ミューラーRobert Muller )というマンディアルグの見方を、「職業的な美術評論家には見られない自由な観点」と評する。

「資格がない」と言いながらさっとこれだけ書ける、プロの文筆家とはこういうものかと素朴に感心した記憶がある。