発見記録

フランスの歴史と文学

犬のことば

2005-12-02 11:17:08 | ことば
はてな・fenestraeさんの「結婚は宝くじ」を見たときは石原都知事が騒ぎの元と知らなかった。「都知事ネタ」で検索するとそこそこの件数。ネタにされやすい方らしい。
ご結婚のスピーチにふさわしいことばかと疑問の声もある。愛や結婚についての箴言は「犬儒派」的なものが多い。モラリストが好む箴言という「貴族的」形式を、基調としてのcynismeに関連づけたのがDitionnaire du parfait cyniqueのロラン・ジャカールだった。(拙文「犬のパンセ」)
写原さんに教わったブログ「フランス箴言集=けすきるぞんでぃ」の「もしあなたの妻が美人でなくとも・・・」などもそういう調子。
シムノンにちょっと似たのがある。
La guerre, comme la vie, est une loterie et on suit son sort sans protester.
戦争は、人生同様宝くじである。人は抗(あらが)いもせず運に従う。
これはシムノンのMémoires intimesから(実はMichel Carly SIMENON Les années secrètesから孫引き)
フランスの引用句サイトでもシムノンのことばは目にする。ただ私が本当にシムノンらしさを感じるのは、そういう部分ではない。
Pedigreeのエリーズもデジレも、特別気の利いたことは言わない。印象に残るのはエリーズの口癖le strict nécessaire(何とか食べていくお金 夫の収入に不満がある)や、ゼネストの日警備に駆りだされたデジレが夜明けに帰宅し口にする?J’ai faim !?(おなかすいた!)、それは小説から取り出せば何の変哲もないことばだ。
子沢山のデジレの生家では、子供が外から帰ると大きな声で「おなかすいた!」というのが習慣だったこと、そしてこの習性は少年シムノンにも受け継がれたことに気づくには時間がかかった。