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Don't Kill the Earth

地球環境を愛する平凡な一市民が、つれづれなるままに環境問題や日常生活のあれやこれやを綴ったブログです

歌、唄、詩(9)

2025年04月11日 06時30分00秒 | Weblog
 前に「ジークフリート」との密接な関係について触れたが、ワーグナー作品における「母との結びつきと性的な欲求」等については、早い段階で指摘されていたようだ。

 
 「・・・これは潜在意識の世界からほのかに微光を放つ、予感に満ちたコンプレクス、母との結びつきと性的な欲求と、そして不安--ジークフリートが知りたがるあの童話の恐怖(メールヒエンフルヒト)のことですが--とのコンプレクス、つまり心理家ヴァーグナーと、もう一人の典型的な十九世紀の息子、すなわち精神分析家ジークムント・フロイトとの顕著な直観的一致を示すコンプレクスであります。」(p22)

 このことは、テクストを見比べてみれば一目瞭然である。

<SIEGFRIED>
Wen ruf' ich zum Heil, dass er mir helfe?
Mutter! Mutter! Gedenke mein!
・・・
<ジークフリート>
(いったい誰を呼んで、救いを求めりゃいいんだ?
お母さん!お母さん!ぼくを忘れないで!・・・)
Ist dies das Fürchten?
O Mutter! Mutter! Dein mutiges Kind!
・・・
(これが「恐怖」というものなのか?
ああ、母さん!母さん!ぼくは母さんの勇敢な息子だ!・・・)
in erhabenste Verzückung ausbrechend
O Heil der Mutter, die mich gebar;
・・・
((感極まってすっかり我を忘れたかのように)
ああ、お母さん、ありがとう。ぼくを産んでくれて・・・)
<BRÜNNHILDE>
lächelnd, freundlich die Hand nach ihm ausstreckend
Du wonniges Kind!
Deine Mutter kehrt dir nicht wieder.
Du selbst bin ich,
wenn du mich Selige liebst.
・・・
<ブリュンヒルデ>
((微笑みながら、親しみを込めて、ジークフリートに手を伸ばす) かわいい子ね!
お母さんはもう戻って来ないわ。
でも、幸せな私を愛してくれれば、
私は、あなた自身になるのよ。・・・)

 引用したのは「ジークフリート」3幕後半の「接吻」のくだりからの「お母さん」に関連するセリフ。 
 ここでは「ブリュンヒルデ」が「お母さん」と同一視されており、母子相姦(及びそれにまつわる恐怖)のテーマが練り込まれていることは明らかである。
 では、「パルジファル」の方はどうか?

<PARSIFAL>
Mutter! Süsse, holde Mutter!
Dein Sohn, dein Sohn musste dich morden! –
O Tor! Blöder, taumelnder Tor!
Wo irrtest du hin, ihrer vergessend, –
deiner, deiner vergessend?
Traute, teuerste Mutter!
・・・
(お母さん!大好きな、やさしいお母さん!
あなたを殺したのは、あなたの息子、おいらだ!
ああ、このバカ!ぼんくらで、ふらふらしてるバカ!
どこをほっつき歩いてたんだ?あのひとを忘れて・・・
あなたを・・・あなたを忘れてしまって。
誰よりも大切な、いとしいお母さん!・・・)
im Trübsinn immer tiefer sich sinken lassend
Die Mutter, – die Mutter – konnt ich vergessen!
Ha! – Was Alles vergass ich wohl noch?
Wes war ich je noch eingedenk? –
Nur dumpfe Torheit lebt in mir!
・・・
((ますます深く物想いに沈みながら)
お母さん・・・お母さん・・・よくも忘れちまったもんだ!
ああ!おいら他のこともみんな忘れちまったのか?
一体まだ何を覚えてるっていうんだ?
おいらの中にあるのは、ぼんやりした愚かさだけ!・・・)
<KUNDRY>
Die Leib und Leben
einst dir gegeben,
der Tod und Torheit weichen muss, –
sie beut 
dir heut –
als Muttersegens letzten Gruss,
der Liebe ersten Kuss.
・・・
<クンドリー>
(あなたの体といい、命といい、
みんな、あの日、愛が与えたのよ・・・
だからその前では、死も愚かさも退散する・・・
愛が今日この日
あなたに与える贈り物・・・
それはお母さんの祝福の最後の挨拶・・・
愛の最初の口づけよ。・・・)

 こちらは「パルジファル」2幕ラストの「接吻」のくだりからの「お母さん」に関連するセリフ。 
 ここでも「クンドリー」が「お母さん」と同一視されており、やはり母子相姦(及びそれにまつわる恐怖)のテーマが練り込まれている。
 だが、「パルジファル」は、ここから「ジークフリート」とはまるで異なるテーマへと転回する。
 パルジファルは、「お父さん」へと向かうのである。



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