京大植物園TODAY

京都市左京区の京都大学北部キャンパス内にひっそり佇む現代の杜、京都大学理学研究科附属植物園の日々の風景を紹介します。

「生命論」授業シラバス(京都造形芸術大学芸術学部)

2007年12月03日 15時46分27秒 | Weblog
平成19年度まで、課外授業として京大植物園見学を取りこんだ講義「生命論」および「生命論2」が、京都造形芸術大学芸術学部の学部生を対象に行われていました。その講義シラバス(講義担当:鎌田東二京都造形芸術大学教授ほか)をご紹介します。

以下、京都造形芸術大学芸術学部シラバス集より引用・抜粋。

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■テーマ
「生態学とスピリチュアリティから<生命>をめぐる思考と実践をとらえる」

■授業概要
人間は生物の一種で、そのゲノム(全遺伝情報の束)はチンパンジーと98.8%同じである。そんな人間が巨大な文明社会を作り上げることによって、他のさまざまな生命を圧迫するばかりか、自分自身の首を絞めるような矛盾した事態に陥っている。この「生命論」の授業では、マクロな生物学としての生態学とミクロな生物学としての分子生物学を両極に見据えながら、科学と宗教の両面から<生命>に迫っていく。まず、<生命>をめぐる思考がどのように展開していったのか、その神話的思考・宗教的思考・哲学的思考・自然科学的思考を概観し、各論に入る。フィールドワークを取り入れ、京都大学理学部植物園見学をする。<生命>が複雑な生態学的つながりの中にありながら、自律的システムを持つことの特性と意味を考える。また、遺伝子操作を行い、生態系に変化をもたらし、人間の条件と境界を揺るがせる現代の「生命科学」の孕む環境倫理や生命倫理の問題も取り上げる。視聴覚資料を用いながらできるだけ具体的に展開し、各自の身体感覚や生命感覚を目覚めさせる授業をめざす。

■授業計画
① 導入―「生命」をどう捉えるか? ―生態学とスピリチュアリティのあいだから
② 「生命」についての神話的思考、宗教的思考、哲学的思考
③ 「生命」についての自然科学的な思考と生態学の成立―博物学・本草学から生態学と環境問題へ
④ 南方熊楠と今西錦司の生態学①―「萃点」と「棲み分け」理論とフィールドワークの重要性
⑤ 京都大学理学部植物園見学―生態植物園としての京大植物園と日本画家・三橋節子の写生の場(「池畔」)
⑥ 日本画家・三橋節子の京大植物園体験と<いのち>へのまなざしと芸術表現
⑦ 南方熊楠と今西錦司の生態学②――霊長類学の現在
⑧ ディープ・エコロジーとスピリチュアリティの関係
⑨ 生命倫理とスピリチュアル・ケアとスピリチュアル・ペイン
⑩ 脳と心と体―トランスする人間
⑪ ホリスティック医学、人体科学、トランスパーソナル心理学、プロセス指向心理学―瞑想と脳と体
⑫ 宇宙意識と生命意識―宮沢賢治の「銀河意識」「四次元」と宇宙飛行士の「スピリチュアル・ワンネス」(龍村仁監督『地球交響曲』)
⑬ 総括―「いのち・生命」の根源性・全体性・かけがえのなさ、科学と宗教と芸術の狭間へ

■テキスト
使用しない

■参考書・参考文献
『進化とは何か』今西錦司、講談社学術文庫
『子どもと自然』河合雅雄、岩波新書
『アエラ・ムック 生命科学がわかる。』朝日新聞社
『複製されるヒト』リー・シルバー、翔泳社
『臓器交換社会』レネイ・フォックス他、青木書店
『人体部品ビジネス』栗屋剛、講談社選書メチエ
『心を生みだす脳のシステム』茂木健一郎、NHKブックス
『身体の宇宙誌』鎌田東二、講談社学術文庫
『神道のスピリチュアリティ』鎌田東二、作品社
『霊性の文学誌』鎌田東二、作品社
『霊的人間』鎌田東二、作品社
『ヒトはいつから人間になったか』リチャード・リーキー、草思社
『人間性はどこから来たか~サル学からのアプローチ』西田利貞、京都大学学術出版会
『DNA人類進化論』宝来聰著、岩波書店
『人間はどこまでチンパンジーか~人類進化の栄光と翳り』ジャレド・ダイヤモンド、新曜社
『チンパンジーの心』松沢哲郎、岩波現代文庫
『日本の生態学 今西錦司とその周辺』大串龍一、東海大学出版会
『暴力はどこからきたか――人間性の起源を探る』山極寿一、NHKブックス

■到達目標
(1)「生態学」から「生命」問題を捉えることができるようにする。
(2)「生命」をとらえる視点を科学から宗教や芸術まで幅広くし、スピリチュアリティも視野に入れる。
(3)現代の環境倫理・生命倫理・医療倫理の問題を理解し自ら考える。
(4)「生命論」を自分自身の人生観・死生観を構築するきっかけとし、自身の創作と研究と実践に生かす。

■評価方法
小レポート・出席・レポート試験
生命論
前期 月曜 3講時139007
担当:鎌田東二ほか

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