京大植物園TODAY

京都市左京区の京都大学北部キャンパス内にひっそり佇む現代の杜、京都大学理学研究科附属植物園の日々の風景を紹介します。

「日本の植物園」(岩槻邦男 著、2004年、東大出版会)

2006年05月20日 22時42分35秒 | Weblog
比較的最近出た「日本の植物園」(岩槻邦男 著、2004年、東大出版会)という本の中に、京大植物園についての記述がありますので、ご紹介したいと思います。

以下、同書第4章3節 「日本の植物園」、(27)項 「日本植物園協会に加盟していない植物園関連施設」より抜粋:

『第1部会(学校園)の会員園が多くないと先に述べたが、日本の大学は植物園のような施設を生かすようにはできていない。たとえば、ドイツあたりの大学では植物学教室には植物園があるのが常態であるが、日本では、ハーバリウムが維持できないように、植物園を附置することも難しいのだろうか。

 ヨーロッパでも、最近になって、分子生物学が植物学教室を席巻し、生きた高等生物を用いる研究はあまりはやらなくなった。しかし、植物園は以前どおり小規模ながらきっちり維持管理されており、むしろ中学校、高等学校の生徒に利用されているのかもしれない。』(166ページ)


『京都大学理学研究科にも2haほどの植物園があるが、これは意外に知られていない。理学部に植物学科が創設されたときにできたものらしいが、戦前にもいろいろ著名な植物が移入された。しかし、官制で認められたものでなくて、キャンパス内に小面積が確保されているだけである。

 設立後長い間植物学教室が周辺の研究者の意見を斟酌しながら管理にあたっていたが、生態学研究センターができて以来、センターが植物教室の意見も聞きながら管理してきた。生態学研究センターが官制として廃止されてからは、植物教室の管理に戻っている。管理主体が動くということは、管理に対する体制が不安定になることであり、利用者との関係もスムーズでなくなることが多い。

 研究に活用されている空間が、それなりに評価されないでいることは、それ以外の用途への転換を期待させることにもつながる。大学附置の植物園が、大学内では貴重な緑の空間として利用されており、植物学に限らない研究の場となっていることを見失ってはならない。大学附置の植物園の多面的な利用とはどういうことか、京都大学の小さな植物園が提起している現代的な問題かもしれない。』(166ページ)