栗林忠道―硫黄島の死闘を指揮した名将

2009-09-11 | history
柘植久慶著,PHP文庫,2006年刊を読んだ。
栗林さんの名将たるゆえんがよくわかる快著。
著者は傭兵の経験があるとのことで,地下要塞の構築,戦術についてわかりやすく記述されているのが,他書にない本書の特徴。
大本営に見捨てられつつあった栗林さんが本土からあえて招いた「歩兵戦闘の神様」中根兼次中佐の記述が興味深い。
2万の将兵のために最善のスタッフを整えたい,それは国家の義務だ,ということだろうが,たしかにそうだ。
2万人を捨石として使っていいわけがない。

栗林さんは,硫黄島に赴任する前は近衛師団の司令官。
いってみれば首都防衛の責任者。
他書によれば,その折東条英機と意見がたびたび衝突したらしい。
栗林さんのことだ,空襲の危険を避けるため一般市民の疎開を提案した可能性がある。
後に,別の将官が疎開の必要性を東条氏に訴えたところ却下された,とのことだから,たぶんそうだろう。
そんなに言うのなら,お前硫黄島に行って東京を防衛せい,ということになった公算がかなりある。
東京大空襲は予見できて,実際栗林さんは予見し,必要な対応を責任者に求めたと思う。
愚将というのはそれ自身罪だ。

あとがきで,生還した堀江参謀による「栗林ノイローゼ説」を明快に否定してあって,気持ちがよい。
とくに最後の「硫黄島の戦訓」電報に「蓮沼侍従武官ニ伝ヘラレタシ」あるのは決定的。
蓮沼侍従武官という人は栗林さんの恩師で,報告が大本営に握りつぶされるのを避けるためこの一項を加えたようだ。
余人ではこれはありえない。

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