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《読書》都築響一『夜露死苦現代詩』新潮社

2010-05-15 05:34:26 | 読書
●〔6〕都築響一『夜露死苦現代詩』新潮社 2006(2010.01.08読了)

○内容紹介
寝たきり老人の独語から暴走族の特攻服、エミネムから相田みつをまで―言葉の直球勝負17本。
痴呆系―あるいは胡桃の城の山頭火
点取占い―あるいはショウユ味のシュールレアリスム
木花開耶姫の末裔たち―あるいは湯に煙るお色気五七五
池袋母子餓死日記―あるいは遺書という暗楽詩
死刑囚の俳句―あるいは塀の中の芭蕉たち
玉置宏の話芸―あるいは分速360字のトーキング・ポエトリー
32種類の『夢は夜ひらく』―あるいは無限連鎖のモノローク
仏恥義理で愛羅武勇―あるいは暴走する刺繍の詩集
最大の印税が最高の賞賛である―あるいはヒップホップする現代詩
あらかじめ答えられたクイズ―あるいは反省と感謝のループ
少年よ、いざつむえ―あるいは輝ける言葉のサラダ
肉筆のアクション・ライティング―あるいはインターネットのエロ事師たち
アイ・シング・ザ・ボディ・エレクトリック―あるいは箱の中の見えない詩人たち
人生に必要なことは、みんな湯呑みから教わった―あるいは詠み人知らずの説教詩
ヒトが生んでヒトが驚く―あるいは見世物小屋の口上詩
肉体言語としてのラップ・ミュージック―あるいは渋谷の街の即興歌人

 面白く読むことができました。

○「夢は夜ひらく」
 戦後日本が生んだ歌謡曲というものを考えるとき、『夢は夜ひらく』は単なる名曲を超えた象徴的存在として、僕らの前に立ちはだかる。だれにでも覚えられ、口ずさめるシンプルなメロディ。起承転結を持たない、無限に続いていきそうな「歌詞」という名のモノローグ。美空ひばりの歌のような、技巧の極みにある芸でもなければ、北島三郎のように閉じられた演歌世界に縛られもしない。かすかな水割りの香りを身にまとい、ネオンがいろどる夜の闇へと僕らを引きずりこむ、それはぽっかり開いたなまめかしい穴だ。
 『夢は夜ひらく』にいくつもヴァージョンがあることはご存知だろう。最初にヒットしたのは昭和41(1966)年の園まり版だが、多くの人にとって、この歌がこころに刻みこまれたのは70年の藤圭子による『圭子の夢は夜ひらく』だった。
(中略)
 緑川アコ、三上寛、バーブ佐竹、水原弘、八代亜紀、ちあきなおみ、梶芽衣子、藤竜也、五木ひろし、細川たかし、牧村三枝子、香西かおり……多くの歌手たちが、それぞれの『夢は夜ひらく』を唄うようになった。他人のヒット曲をカバーしたのではない。メロディだけはいっしょだが、歌詞はすべて異なる「新曲」としての『夢は夜ひらく』である。今回、日本音楽著作権協会に確認したら、歌詞の異なる『夢は夜ひらく』がなんと32曲もあった(うち1曲は宮川泰によるBGMなので、歌詞はないかもしれない)。たとえば緑川アコ版の『夢は夜ひらく』は美川憲一や黒沢明とロス・プリモスも唄っているというように、同一歌詞版を複数の歌手が唄っているケースを含めれば、現在40人の歌手による登録がある。世にスタンダードと呼ばれる歌曲は多いけれど、ひとつの曲でこれだけ異なる歌詞を持つ曲というのは、世界的に見ても稀なのではないだろうか。この曲の持つなにが唄い手たちの、作詞家たちの創作意欲を、これほどまでにかきたててきたのだろうか。(「32種類の『夢は夜ひらく』―あるいは無限連鎖のモノローグ」pp.98~100)


○説教詩
ぼけたらあかん長生きしなはれ

年をとったらでしゃばらず
憎まれ口に泣きごとに
人のかげぐち愚痴いわず
他人のことは誉めなはれ
知ってることでも知らんふり
いつでもアホでいるこっちゃ

勝ったらあかん負けなはれ
いずれお世話になる身なら
若いもんには花もたせ
一歩さがってゆずりなさい
いつも感謝を忘れずに
どんな時でもおおきにと

なんぼゼニカネあってでも
死んだら持っていけまへん
あの人ほんまにええ人や
そないに人から言われるよう
生きてるうちにバラまいて
山ほど徳を積みなはれ

そやけどそれは表向き
死ぬまでゼニを離さずに
人にケチやと言われても
お金があるから大事にし
みんなベンチヤラいうてくれる
内証やけどほんまだっせ

わが子に孫に世間さま
どなたからでも慕われる
ええ年寄りになりなはれ
頭の洗濯生きがいに
何かひとつの趣味もって
せいぜい長生きしなはれや
ぼけたらあかん はけたらあかん 長生きしなはれや
(pp.222~224)

つもり違いの十箇条

一、高いつもりで低いのが教養
二、低いつもりで高いのが気位
三、深いつもりで浅いのが知識
四、浅いつもりで深いのが欲望
五、厚いつもりで薄いのが人情
六、薄いつもりで厚いのが面の皮
七、強いつもりで弱いのが根性
八、弱いつもりで強いのが自我
九、多いつもりで少ないのが分別
十、少ないつもりで多いのが無駄
(pp.230~231)

(「人生に必要なことは、みんな湯呑みから教わった―あるいは詠み人知らずの説教詩」)