ΓΝΩΘΙ ΣΑΥΤΟΝ-購書&購盤日記-

本やCDを買う日々の記録です。ツイッター:http://twitter.com/sr_azev

《読書》浅羽通明『右翼と左翼』幻冬舎新書(その2)

2007-01-07 06:23:00 | 読書
《読書》浅羽通明『右翼と左翼』幻冬舎新書(その2)
(承前)
○右翼と左翼の語源について
「(フランス革命後、議会で議長席から見て右方の席を占めたことから)保守派」
「(フランス革命後、議会で議長席から見て左方の席を急進派ジャコバン党が占めたことから)急進派」
『広辞苑』で、「右翼」「左翼」の項には、このようなカッコ書きが付されています。いわゆる「語源」となった故事というわけですね。
『日本国語大辞典』にもこうあります。
「(フランス革命当時、国民議会で、穏健派が右方の席を占めたことから)」
「一七九二年フランス国民議会で、議長席から見て、左に急進派であるジャコバン党が議席を占めたところから)」
『新明解国語辞典』も第五版以降に、「(フランス革命時、フランス国民議会で、保守派のジロンド党が議長席から見て右側の席を占めたことから)」「(フランス革命時、フランス国民議会で、急進派のジャコバン党が議長席から見て左側の席を占めたことから)」というカッコ書きを付すようになりました。(中略)
 しかし、これらの辞典の記述は誤りではないにしろ、やや不正確です。どこがというと、一七九二年とか、ジャコバン党、ジロンド党といった固有名詞がです。(pp.51~52)

 右翼と左翼の語源がフランス革命に端を発することは広く知られていることですが、細かく見ていくといいかげんな記述も見られるようですね。
 ちなみに、『大辞林』には「フランス革命における国民公会で議長席から見て右側に保守派のジロンド派が座ったことから保守的・国粋主義的な思想傾向。また、その立場に立つ人や団体。」(Yahoo!辞書で検索。斜体は引用者)となっています。
 なお、フランス革命は次のように推移していきます。
「国民議会」(1789.6.17)→「立法議会」(1791.10.1)→「国民公会」(1792.9.20)→「総裁政府」(1795.10.27)……。
(『ニューステージ世界史詳覧』浜島書店(2002)p.164)


○アンシャン・レジーム
 当時のフランスは、いわゆるアンシャン・レジーム、絶対王政の時代でした。
 第一身分とされた僧侶、第二身分とされた貴族。人口の二割強を占める彼らは特権階級とされ、広大な領地を有し莫大な財産を持つ者も多くいたにもかかわらず、全く課税されなかったのです。(p.54)
 『ニューステージ世界史詳覧』(p.164)によると第一身分(約10万人 0.4%)、第二身分(約40万人 1.6%)、第三身分(農民約2000万人 市民約450万人)となっています。浅羽通明の書く「二割強」というのは間違いですね。


○Liberte, Egalite, Fraternite
 まず「博愛」は誤解を招きやすい誤訳です。数十年読み継がれている標準的な概説書、桑原武夫編著『フランス革命とナポレオン』(中公文庫・世界の歴史10)も含め、ちゃんとした本では、「友愛」となっています。原語ではフラテルニテ、英語でいうフラタニティですからこれが正しい。
 語源はギリシャ、ラテン語のようで、兄弟愛を指します。そこから血のつながった兄弟同然、いやそれ以上の、特別な仲間の結束、同志愛とか団結心を指すようになりました。キリスト教の隣人愛ともつながるので博愛といえなくもないのですが、それでも基本は信徒同士のものに限定されており、「博」ではないでしょう。(中略)
 ですから「自由・平等・友愛」はむしろ「自由・平等・団結」というべきだといったのは評論家呉智英氏ですが、いっそ「自由・平等・愛国」とまで意訳してもいいかもしれません。(pp.102~103)
 なるほど。


○「密教」と「顕教」
 明治維新でできた政府は、天皇を国家の中心に据えました。しかし、それは薩長出身の国家指導者があやつるロボットでした。大日本帝国憲法制定後、それは立憲国家の象徴的君主というかたちで制度化されたのです。しかし、この近代的政治理論を理解していたのは、東京帝国大学などを卒業し、高級官僚や学者となるようなエリートのみでした。一般庶民、またエリー卜でも軍人向けの教育では、天皇は「万世一系」の「現人神」で全国民の慈悲深い父母と信じさせられたのです。戦後、思想家久野収は、これを仏教内のエリート向け教義と大衆向け教義とのダブル・スタンダードに喩えて、前者を「密教」、後者を「顕教」と呼びました。
 昭和の「右翼」は、明治の権力者が庶民用、軍入用に創り上げたフィクションであるこの「伝統」(顕教)を真に受けました。このフィクションを前提として、私心なき神である天皇が直接支配すれば、農村中心のけがれなき日本が回復できるという。ユートピアを勝手に美化し幻想していったのです。そして学問的エリートたちの通説だった「天皇機関説」(密教)を、天皇陛下を蒸気機関のごとく見倣す不敬な学説ゆえ弾圧すべしと突き上げるまでに到ったのでした(国体明徴運動)。(pp.152~153)
 なるほど。