●〔75〕中島義道『続・ウィーン愛憎-ヨーロッパ、家族、そして私-』中公新書 2004 (2005.10.13読了)
10年ほど前に前作である
『ウィーン愛憎-ヨーロッパ精神との格闘-』(中公新書)を大変面白く読み、中島義道に興味を持ちました。その後、
『孤独について-生きるのが困難な人々へ-』(文春新書)を読みました(有名な『うるさい日本の私』(新潮文庫)は途中やめのまま)。
中島義道は「戦う哲学者」の異名を持つ通り、かなり個性的(我が強い、eccentric)な人で、あまりお友達としてはお付き合いしたくないですが、書くことは面白いです。『孤独について』では自分の家族のことをかなり赤裸々に書いて、また本書でも夫婦の危機について率直に書いていました。物書きとはなかなか大変ですね(その家族も)。
妻はなぜ「ウィーン半移住」などという大それた計画を思い立ったのか、それには、かなり錯綜して見えるが、じつは単純で深刻な理由があった。互いに絡み合っているが、あえて箇条書きにすると以下のようになる。
一、毎日が修羅場のようなあなたとの結婚生活は、息子に好ましい影響を与えないだろう。このまま、この子が思春期を迎えると思うと恐ろしい。親として、彼には苦労をかけてきたから、せめてひとりで生きていける力を授けてやりたい。
(中略)
一、あなたとはこれ以上一緒にいると確実に破局に至る。離婚するのだったら、慰謝料も養育費も要らないから、その分でウィーンに数年住まわせてほしい。私はあなたがウィーン大学の学生のころ三年養ってあげた。だから、せめて自分も三年間ウィーンに住まわせてほしい。そうしたら、離婚も納得できる。(pp.56-57)
哲学業界についての面白い話をひとつ。
日本には六〇〇ほどの四年制大学があるが、大学間の格差は激しく、研究者養成期間としての大学は旧帝大と有名私立大学の一〇校程度に絞られている。哲学界のボスもこうした大学の卒業生で占められ、この業界で認められて大学教師のポストを獲得するためには、場合によっては教授に奴隷のように仕えなければならないこともある。教授の学説がまちがっているとわかっていても従わねばならないこともある。日本社会はとりわけ協調性を尊ぶから、どんなに能力があっても一匹狼は駄目。ある東大の教授が「ヴィトゲンシュタインが応募してきても断る」と言ったが真実であろう。(p.139)