四季の山を歩き、思い、創造する。
凌 手記
シノギング旅烏 ~川合から大地、大地から千足へ~ 【前編】
近江、伊勢の越境シノギングから早半年。
その時に生まれた新たなシノギングの提案、二泊以上補給有りの「シノギング旅烏」を、より身近なエリアでも実践すべく、我々が向かったのは山梨は四方津の地。
これより以南の秋山へ、集落を繋ぎ行商へ出、戻ってくる。そんな想いで臨む旅烏。
旅烏日和りな雨模様の中、まずは最初の集落を目指しトボトボと歩き始める。このシノギングから派生で生まれたタビガラスも映える。
長大な桂川を越えると様相は一気に変わり、川合の集落へ。
このマップが集落の歴史を物語る。
補給を含む連泊の旅烏では、この集落や下道のような、山の中以外の場所を通ることも必然となり、大事な要素の一つでもある。
この集落は時が止まったように、当時の”空気”感が燦然と流れている。
旅路を急ぐ我々も、ついつい足を止めてしまう。
そして、ある言葉が彫られた石碑。これが最後の最後にまた繋がる重要な石碑となす。
集落から徐々に山間に入っていくと、立派な柿の木を発見。すでに小さな実が落ちているのが散見されるが、この量に比例するように、この秋には沢山の柿の実がなるのであろう。
この山域は名の付く峠が多く、北と南を結んだ名残を色濃く感じられる。そこに想いを馳せる事はあるが、あくまでシノギングは実践する側。先人たちに敬意を払いながらも、自身の知見、経験値を元に、それらの道に囚われず歩むべし。
峠の手前の道から少し外れたところにお社が。掃除は行き届いており、綺麗に保たれている。
さて、最初の峠に到着。今一度地形図を確認する。ここからは渓側へ点線も延びており、その道を拝借して中間地点の千足集落を目指す。ただ、この点線はかなり信憑性が薄い道との情報もある。その真相や如何に。。
颯爽の分け入る。最初は少し藪で隠れているが、入るとまだしっかり分かる道である。
渓へ下り切ると、雨のお陰か沢の流れはあるも、普段はほとんど枯れているであろうことが伺える渓相。
この先は少しフミアトも薄くなるが、薄っすらと延びる道へ小さな渡渉をすると、一瞬尾根をトラバースし、また大きな渓に出る。地形図上の点線はこの渓沿いに延びているが、前回この辺りでのシノギング時にその道が消失している事は承知している。
現在延びている道を辿って、尾根寄りに近づく。ここからは我々らしく、尾根をタドル道へ。P417目掛けて詰まった等高線を攻めるべく、更衣にて臨戦態勢へ。
いざ、参らん。
思った以上に地面が粘土質で、雨のお陰でズルズルと滑る。凌ピッケルを出しておいて良かった。
一気に傾斜を詰めるも、今度は下草五月蠅い小さな藪へ突入。15℃前後の気候ではあったが、湿度も合いまって既に汗だくの二人。
藪だけなら良いが、モミの幼木の群生、中腰必須の倒木も行く手を阻む。
高低差ほんの50m程の登りに苦戦。足元は既に泥だらけである。
ようやく落ち着いた少し平場な所で、ツユハラヒを全換気モードに。湿気を一気に放湿する。
尾根らしい尾根に出るも、
時折五月蠅い藪がぶり返すため、またツユハラヒ装着にて備える。
無事P417へ到達。この先は暫しゆっくり出来そうだ。
次に狙いをさだめたのは、となりのフタコブピークとの間にある小ピークから延びる小さな尾根。この先でまた渓に下りて、先の点線のクネっている辺りを目指す。
しかしながらこの尾根の入口が非常にわかりづらく、フタコブのピーク手前まで足を延ばし確認。結果鞍部から渓に入りトラバース気味にその尾根を狙う事に。入念に地形図とコンパスを確認する。
渓の入り方、その先の景観から、大きな問題もなさそう。その先に見える藪が気がかりではあったが、
足元が不明瞭ながら、そこを気に掛けながら一気に漕いで抜ける。
その先にて目指す尾根をしっかりと確認。その尾根上から始点を見上げると、倒木と少し崖のようにもなっており、見つけられなかったのも納得。
この辺りは地形図での感覚と、実際の感覚との違いを感じられる、ある意味シノギングでも面白いポイントである。その先の尾根はしっかり明瞭で歩きやすい。
雨後らしい、盛大な蒐場も出現。
そこからはまた少し急な下りをこなし、大きな沢筋を眼中に捉える。
予想以上にしっかりした流れに、沢までの最後の斜面が崩れ落ちてか崖のように急である。
尾根直に下りるのは諦めて、トラバースのツヅラヲリをイメージして緩い傾斜を狙って下りていくも、崩れた後のようにグズグズになった斜面は、例の粘土質も合いまってかなり滑る。踏ん張りも意味を成さない程で、何とかこの小さな木々が残るところまでは行けたが、ここで戻るも進むも出来ない、詰みの状態へ。
後に続いていた柳谷は、それを回避すべく少し上を進んだが、結局状況は一緒であった。
ということで、お助け紐の登場。いや、この木々があって本当に良かった。
お助け紐があっても、滑るものは滑る。補助とする右手にもしっかり力を入れながら、ほぼほぼ滑りながら下っていく。
足掛かりも何もない、ドロドロのこの斜面を下るのはかなりゾッとするはず。
無事、渓へ下り切ることができ、間髪入れずに対岸を見上げると、斜度は同じ程度...ただ、足掛かり手掛かりになりそうな下草は生えており、凌ピッケルを駆使していけば何とか登れる。
ただ、やはり一部ズルズルと滑るところもあり、かなり難儀する。ここの尾根はかすめて反対側のもう一つの渓へ出たいのだが、この斜面状況でのトラバーズは難しく、ツヅラヲリに一先ず尾根へ出る。
出た尾根は意外にしっかりしており、交差する渓より近くまでタドル事は出来た。しかし、最後は同じようにズルズルの斜面をゆっくりと下りる必要があった。お助け紐無しでも行けたが、凌ピッケルがあって本当に良かった。
この沢沿いにかつての点線道が延びているはずだが、上流側はほぼ消失している。そもそもの地形図の情報が古い時代の物で止まっている可能性は高い。
更に対岸に移った下流方面には、尾根に向かって薄っすらトラバースするように道らしきものは延びている。ただ、これがその点線の道かは定かではない。
見るだけならば、渓相としてはとても良かったのだが、もうこのエリアには近づきたくない。。
今回の旅烏最大の難所であったことは間違いない。
尾根寄りに薄っすら延びる道はまるでハイウェイ。一安心。
尾根に乗り、一息つく。ここで一度リセット出来た事にはなるが、この感じではこの先の点線道はきっとほぼ消失している。念のためそれらを確認すべく、尾根を巻く点線地点まで少し下る。
すると、それっぽく尾根を巻いてトラバースしていく道が現れるも、
覗いてみるといかにも消失している様子。。
ここで少々作戦会議。
このまま残っているかもわからない点線道をタドルよりも、我々らしく尾根を詰めて、峠、その先を目指すべきではないか。
そのためには千足集落は諦める必要があるが、この集落は最終日の帰りの下りに使っても良さそう。という事で今一度地形図とにらめっこし、この先の道筋を考える。既に正午過ぎ回っているので、ネグラも考慮しながら。
尾根道は問題なく主稜線へと延びている、幸い途中何ヶ所か白場も点在しているので、そこを確認しながら、良い場所ならばもうそこをネグラとしよう。そうと決まれば、行動食をかっ食らい、登りに備える。
まずは最初の尾根をこなし、小ピークに到達。やはり尾根道は安心できると痛感。ツユハラヒは換気重視で跳ね上げモードにて。
登り基調な中でのささやかな下り。風を感じながら進む。
主稜線に繋がる手前、石碑のようなものを発見。いや、シンボリックなただの石かも、、
この道中の白場は残念な結果だったので、先を急ぐ。程なくすると主稜線へ合流し、フミアト登山道に出る。
最後の望みを掛けて、道から外れた隠れたピークがありそうな白場への登り。如何に。
結果は大正解。変なピークもなく、二人でちょうどよく張れるスペースもあり、晴れてこちらを今宵のネグラとする。
まずはタビガラスを敷いて荷物を広げる。ここから必要な道具を選定していく。
手際よくネグラを作っていく。
勿論試し寝もしっかりと。ゲッカビジンはこのソファモードでついついウトウトしてしまいがち。。
屋根とハンモックが整えば、ハンモック周りの作業場土間を形成していく。
これで完成といきたいが、面倒臭くなる前に、巻き集め。
土間も整う。
そして着替えを済ませて、
干すもの干せば、
ようやくネグラの完成。ここまでに約1.5時間は掛ける。ある意味凌の所作でもある。故に夕暮れギリギリまで歩き回ることはなく、ある程度余裕をもってネグラ地点には着けるように計画する。
日が暮れるまで少し時間があるので、ソファモードにてウトウト。。
ヨヒヤミ前にまた動き出し、ぼちぼち始めますかと、焚火を開始。
程なくするとウスグレ。
今宵、如何に食らって呑むかで、明日の荷物の重量も決まる。旅烏では補給をするので、上手に絡めていきたい所。
食事が落ち着けば、焚火に晩酌時間。実はこの間、雨はフッタリヤンダリだが、ヤナギニカゼの庇の長さがあれば、全然余裕である。
こうしていつも通り、夜は更けていく。。
明くる朝。
晴れやかな朝。濡れた道具達も少しは乾かせそう。
ギリギリまで起きないが、起きてからはあまりグダグダしないのも凌流。ちゃちゃっと煮炊きを始め、
朝飯を作り、かっ食らう。
余裕があれば、ちょっとソファモードでゆっくり笑 ただグダグダはしない。
頃合いを見て撤収を開始。
立つ鳥跡を濁さずにて。
一夜後の笑ってはいけない奴。45度、B面。
さて、いざ出立。山間を越えた隣集落である大地まで下り、とある商店で補給をする。
二日目の行程はそこまでガッツリではないので、ゆっくりな10時の出立。天気も相まって少し暑いか。
暫くすると主稜線登山道へ合流。旅烏の場合は、この登山道との合流も必須。この辺りも上手く凌ぐためには、マイナーなエリアを狙っていく方が良いであろう。このエリアも、この時間で歩いている登山者や、すれ違いも一切なかった。
すると使われているのかいないのか、、立派な林道も並走しだす。
この辺りは林道がしっかり入り込み開拓されており、かつての峠道の面影は少ないのが残念。経済の発展と共に、道も発展していき、利便性は飛躍的に上がったが、それと引き換えに失われてしまったモノも確かにある。このジレンマとも、受け入れて上手く付き合っていくしかないのか。
途中林道と交差したり、並走する所もあるが、峠へ続くかつての道は、ひっそりと佇んでいる。
到達するは「新大地峠」新??
「新」の謎を残しつつも、先を急ぐ。この辺りは完全に林道とう並走しているが、植生良く心地良い道が続く。
意味ありげな露岩も散見される。。
そうして到達するは「旧大地峠」普通に考えればこちらが正規の大地峠であろう。この辺りの歴史も非常に興味深い内容であった。シノギングの域を越えてしまうのでここでは割愛する。
大きな峠らしい拓けた景観。秋山地域の集落達も眼中に捉える。
ここからは完全に下り基調。ただ、補給後の二日目のネグラの事も考え、下見をしながら下っていく。
広さはあるが、植生がなぁ。
少し斜面ではあるが、植生と雰囲気は良さそう。という事で、ここを第一候補としておく。候補があると、この後の行程計画も立てやすい。
徐々に植林がメインとなってくる。
木々の合間から大地集落が覗く。もう間もなくだ。
P518からは送電線もあるので、巡視路で上手く下りられるかと考えていたが、その方面には同時に民家も点在している。故に無難に渓側に下りて、その右岸にある林道で集落を目指す。人が入った形跡は随所に見受けられる。
その手前の微かな尾根の分岐にて、植生界でもあったので何とか見分けはついた。羊歯も目立ち始め、沢筋は近いか。
沢の流れが聞こえてくる。どうやら尾根から北側に下りると堰堤の上流に下りてしまいそう。そうなると上手く巻けるかも心配なので、堰堤から下流側に出るべく、少し裂けていた灌木の南側へ突っ込みトラバースに入る。
幸いそこまで酷い灌木ではなかったが、なんとか沢筋へ合流。補給後はここをまた戻るのか...
一抹の不安も残るが気持ちを切り替えて、集落へ出る前の身支度を済ます。
林道をタドルと久しぶりの文明の空気。
こじんまりとした集落だが、それがまた良く、風情も残る。
見えてきた見えてきた。今回の補給ポイント商店。
さて、この商店ではどのような出逢いがあるかな。。
疾風怒涛の後編へ続く。