四季の山を歩き、思い、創造する。
凌 手記
梅雨入り前にお泊りシノギング
いまだに梅雨入りしていない関東地方。梅雨前線が北上して湿った空気に支配される前の最後のチャンスと未開エリアのシノギングに出かけた。
甲州街道最大の難所と言われた峠に近いS駅。東京方面以外はぐるりと急峻な山に囲まれている。今日はここからひたすら西に向かう。
凌口として目星をつけていた大きな尾根の末端を偵察し一番楽そうなところから入り込む。
地形図には針葉樹の記号があり、植林地なら歩きやすいだろうと安易に考えていたが、間伐された木があたり一面そのままゴロゴロ残されていてとっても歩きにくい。シノギングによくある最初と最後が一番のクライマックスというやつだ。
あちこちに倒れる間伐材を除けながら不規則なラインで200mほど尾根を辿ると見事な送電鉄塔ここでもう1,000m圏。南高尾の別荘付近の鉄塔は柱がくの字だがこちらは太い円柱だ。暫しこの造形美に見とれる。
鉄塔を過ぎると植生は広葉樹の森に変わり気持ちのいい尾根が続いている。ここからは緩急をくり返して少しずつ標高を上て行く。
気温は18℃ほどと意外と低く、すでに汗びっしょりなので谷から吹き上げる風を受けると寒いくらいだ。こういう時にハゴロモやクナドがあると助かる。が、しかし、あろうことかそのどちらも忘れてしまった。こんなところで寒さを凌ぐ事になるとは・・・、油断は禁物である。
地形図を見る限り今回のルート上に壁はないが、ピンポイントの悪場があるかもしれないので念のため凌ピッケルを持ってきた(ハゴロモ、クナドは忘れたのに)。時折り現れる急斜面ではバランスを取るのに大いに役立つ。
1,250m圏でS峠からの一般ルートに合流。細かく急なアップダウンが続く岩まじりのヤセた尾根は、先ほどまでへらへら凌いでいた尾根よりも危険ヵ所が多く緊張する。「凌尾根 」< 「一般ルート」である。トレッキングポールよりも取り回しが効いて強度のある凌ピッケルはこんなところでも大いに役に立つ。
40分ほどで一般ルートの難所を抜けて1,400m圏に出た。ここで一般ルートとお別れしてもうちょっと西に進む。ハンモックポイントとして目星をつけていたのは1,500m圏のY字尾根。地形図上では尾根が二股に分かれる比較的広そうなポイントなのでここで決まりと思っていたが、意外と狭く雰囲気もいまひとつなのであきらめて、南の尾根を少し下ったところに適地を見つけた。
現在13時45分。ちょっと早めだが、気持ちのいいハンモックポイントでのんびりくつろぐのもシノギングの楽しみなので、早めのチェックインには何の不満もない。
ささっとEXPED Travel Hammockをセットして、それに試作品のハンモック用フルカバーキルトを通す。これはウキグモのリバーシブルキルトを単体仕様にしたもので、暖かい時期はこれだけで寒い時期にはアンダーキルトとトップキルトをレイヤードして夜を凌ぐことができる。
気温は16℃。汗冷えを防ぐためにカルフワタオル(21AW発売)を腰に巻き、クイックハラマキを腹に巻いてハヲリモノoctaを着る。設営の仕上げにEXPED Hammock Trekking Tarpをビシッと張る。ビシッとね。これで本日の寝床の完成だ。
EXPEDのHammock Trekking Tarpと Solo Tarpは今期生産分からガイラインの末端仕様が変わり、これまでのフックやトグルではなくループになっている。これはプラスチックパーツを使わずによりシンプルなロープワークを応用した仕様になっていて我々としてもとても共感できる。
末端のループにガイラインをくの字に入れた隙間に枝やペグを挟んで簡単に固定できる。
私はループをほどいて引き解け結びで固定している。
夕暮れを静かに流れる時間にうっとりする。ウッドストーブに火を熾して行燈風シェードを灯そう・・・。あれ?ない、ない・・・。しまった、行燈風シェードを忘れた(笑)また忘れ物かよ。でも慌てません。EXPED Cord Drybag ULをシェード代わりにする。
ウッドストーブで調理してぬる燗をつけて西には町の灯り。パラパラと時折りタープに当たる雨音を聞きながら眠りについた。
朝5時45分、あたりは薄い霧に包まれていいる。気温は12.5℃。ヨヒヤミやアグラスカートなどの綿入りインサレーションなし。羽毛量180gのフルカバーキルトと羽毛量130gのウンカイlightで余裕で暖かく過ごせた。この組み合わせで10℃位まで行けそうだ。
手際よく朝食を済ませて撤収。
本日はひたすら東へ。枝が覆いかぶさって歩きにくいヤセた尾根を凌ぐ。昨日と同じ岩まじりのヤセ尾根を戻って再び凌尾根へ。今回のような少々テクニカルなルートには、足さばきの良いクナイとハザカヒの組み合わせが安心であり快適だ。
昨日よりも気温は低いが湿気が入ってきているためか歩きはじめから汗が噴き出しハチジュウハチヤはすぐにびしょ濡れ(笑)ヤマボウシAirのツバの縁からは汗がしたたり落ちるという真夏のような激汗(笑)
途中、昨日より一本北の支尾根に入って最後は急斜面を直降り。
凌ピッケルを打ち込んで進むような壁はなかったが、雪山でピッケルを使うのと同じ様に、今回のシノギングで凌ピッケルは大いに役に立った。
今年前半の気持ちのいい尾根歩きはこれが最後かな?暑くなったら沢を絡めてのシノギングが楽しみだ。