北米の経済は好調であり、インフレ水準の高さには対処が必要ではありますが、中央銀行の管理の中で十分にソフトランディングが可能な状況です。また、政治的にも、対中国への輸出規制などが効果を発していて、米国主導の世界へ回帰していくことが十分に可能な状況にまで至っています。
しかし、大きなリスクが目の前に控えております。それは、2024年は米国大統領選挙の年であり、共和党予備選を勝ち抜くあろう第一候補が、未だに、あのトランプ前大統領だからです。
トランプ支持者には、常識的な情報伝達が通用しません。新聞を読まない、TVニュースは見ない、主な情報源がSNSやネットニュースなので、体系的に真実を伝えようとしても難しい有権者たちなのです。何かあれば、また暴徒に化すかもしれない支持者と言えます。
ところで、トランプのコアな支持者たちとは、工場勤務などに従事する伝統的な白人労働者層なのですが、彼らは、いつごろから新聞を読まなくなったのでしょうか?
ちなみに、ワタクシが米国で研修を受けていた1988年の頃は、伝統的な白人労働者層は、必ず新聞を読んでいました。またCNNで、国際ニュースや経済ニュースも見ていました。とにかく、あの当時の情報源と言えば、新聞・TVがメインの時代ですから、彼らが仕事を得るため、あるいは職を維持するため、また日常生活に必要な情報を得るには、新聞とTVから情報を入手するしかない時代でしたから、彼らも、NYタイムスやワシントンポストの隅から隅まで、記事に目を通すことが当たり前の時代でありました。
そもそも新聞記事とは、新聞社および新聞記者のインテリジェンスにより濾過あるいは浄化された、質の高い、洗練された情報であります。そこから情報を得ていた米国国民は、こぞって洗練された情報を入手し、頭に入れていたことになりますから、当時の米国国民のリアクションも、自然と真っ当な方向へ向かうことが多かった訳です。
ワタクシの米国研修の間に、1988年の米国大統領選があったのですが、選挙開票日に大勢が決したあと、敗れた民主党候補のデュカキスが、勝った共和党のブッシュに対して、祝福の電話をかける。それを全国民がTVで観ながら、民主党支持者だろうが共和党支持者だろうが関係なく、新しい大統領の誕生を祝福する。という、まさに本場の民主主義を見せつけられて、感動したのを覚えておりますが、今思えば、米国国民が新聞やTVニュースを通して、質の高い、洗練された情報をベースに、自らが考える信念に従って行動していたからだと思います。
あれから30数年が経って、米国では、大統領選挙の最終結果を覆そうと、米国議会を暴徒が占拠する事件が起きました。しかも、それを扇動したのが、選挙に敗れた現職大統領のSNSでした。
言うまでもなく、インターネットの情報、SNSの情報とは、新聞記者のインテリジェンスによる濾過作業前・浄化作業前のナマ情報ですから、極めて感傷的でエモーショナルな内容だったり、根拠のないデマ情報を含む、総じて質の低い情報が垂れ流されることになります。結果、一般大衆を煽る煽情的な情報が、大衆の気を引くが故、面白いが故に、優先的に飛び交うことになります。
この状況が変わらない限り、2024年の米国大統領選のリスクをコントロールすることは難しいのかもしれません。