今年も6月の初めに、JRA顕彰馬の投票が行われます。
昨年の今頃も、相当厳しいことを申し上げましたが、昨年の『2022年 顕彰馬投票』は、まさかの「顕彰馬なし」という結果に終わりました。満票確実と言われたアーモンドアイも、あと3年しかチャンスのないキングカメハメハも、顕彰馬に選ばれませんでした。
原因は、明らかに「投票権を持つ記者の中に、見識のない記者が相当数混ざっているから」であります。
昨年も申し上げましたが、もともと、JRA顕彰馬の選定にあたっては、有識者による「顕彰馬選考委員会」の審議によって決定されていました。さすがに、この頃の有識者は、知識も見識も高い方ばかりで構成されていたので、最初の10頭、次の5頭と、誰が見ても「なるほど‥」と思える選定結果になっておりました。
それが、トウショウボーイが選定されて、テンポイントが選定されなかったタイミングの時、関西の競馬ファンの世論やマスコミが「異論」を唱えるようになり、もっと一般の競馬ファンの声が反映される形の選定方法へと、舵が切られることとなりました。結果として、2001年からは現在とほぼ同じ、マスコミによる投票方式となり、幾つかの細かな変遷を経て、現行の選定ルールは2015年に確定しました。
投票権を持つのは『10年以上競馬報道に携わっているマスコミ・新聞記者』。1名4頭までの連記式投票を行い、総投票者の3/4以上の得票が得られれば、顕彰馬へ選出されることになります。これはこれで、アメリカも同様の仕組みになっており、問題なさそうに思えますが、『10年以上競馬報道に携わっているマスコミ・新聞記者』というのが怪しい仕組みの元になっています。
この中には、JRA馬事文化賞を受賞するような見識者もいれば、競輪・競艇・オートレース等を兼務している地方局のADみたいな人や、YouTuberレベルの人も混ざっています。広く生産界から地方競馬の運営面まで心血を注ぐ見識者もいれば、単にTV視聴率あるいは自らのSNSのフォロワー数のみが関心事の人間も混ざっているということ。後者のタイプが増加傾向にあることに、強い不信感を抱くのはワタクシだけではないと思います。
結果として、今の投票方式では、現役時代をなるべく長く活躍して、獲得したGⅠ数が多い馬ほど、早く選定されやすい状況になってしまっています。怪我や生産界の事情で早く引退して、種牡馬として、あるいは繁殖牝馬として大活躍した馬には、陽が当たりづらい仕組みになっているということ。
その代表例が、キングカメハメハ。GⅠ獲得は、日本ダービーとNHKマイルCの2つだけではありますが、種牡馬としての成績は、2023年5月21日現在、産駒のJRA通算勝利数は2191勝、JRA通算重賞勝利数は135勝で、第1位サンデーサイレンス、第2位ディープインパクトに次ぐ、堂々の第3位。日本の競馬界へ残した功績は、過去の表彰馬たちと較べても、遜色ないどころか、頭一つも二つも抜けた存在となっています。しかし、このキングカメハメハが、まだ顕彰馬に選定されていません。登録抹消から20年以上経過すると、選定されるリストから外れてしまうので、あと2年しかチャンスがありません。
今年は、昨年まさかの選定外となったアーモンドアイが、まず満票で選定されることになるでしょう。しかし、それ以外の票は、モーリスやブエナビスタ、ダイワスカーレット、そして今年から候補となる無敗の三冠馬コントレイルなどに割れてしまい、キングカメハメハに、どこまで票が集まるか定かではありません。
こんなことを繰り返しながら、日本を代表する牝系を創り出しているベガやエアグルーヴといった名牝は、既に顕彰馬選定の資格を失ってしまいました。また、産駒が3頭も人気種牡馬となっているシーザリオもあと2年で資格を失いますが、今の仕組みでは顕彰馬に選定される可能性は極めて低いと言わざるを得ません。
ワタクシも、もうグタグタ言うのは止めにして、競馬記者の方々に対しては、「4票持っている投票権のうち、アーモンドアイとキングカメハメハとシーザリオの3票については、黙ってそう書け!」と言いたいところですが、ぜひ「責任感を持って投票を!」と申し上げておきたいと思います。
もし、今回もキングカメハメハが顕彰馬に選定されないこととなったらば、私は今の選定方法を止めて、元の有識者による「顕彰馬選定委員会」の復活を提唱したいと思います。
ワタクシは民主主義の信奉者ではありますが、今の顕彰馬投票は、明らかに「ポピュリズム=愚民主義」に陥っていると思います。
もし「ポピュリズム=愚民主義」に陥ったら、一度元に戻してやり直す方が、民主主義の基盤を守ることに繋がると信じております。