八王子の街を歩いていたら、酒屋で懐かしいお酒を売っているのを見つけた。『月丸』。一瞬通り過ぎたのだが、あと戻って買って帰った。もう十年くらいみかけたことが無かったからだ。
この酒には忘れられない思い出がある。
西岡酒造は戦前からある酒蔵らしいのだが、『月丸』という銘柄は平成になってからである。若い頃良く利用していた西八のひろせ酒店の店頭でスーツ姿の営業二人が新商品の酒を客に勧めていた。試しに飲んでやるというとよろこんで紙コップに酒を酌んでくれた。俺はカップを少し傾け色をみて、香りをたしかめ、口に含んで味わった。そのときの固唾を呑んで見守る営業二人の表情が忘れられないのだ。
月丸は正統派の味で、少し変化球の酒が好みだった俺には物足りなかった。しかし営業の神妙な顔に免じて「これは美味しい!一本いただきましょう」と言ってしまったのだ。するとパーッとあかるい顔になり「ありがとうございます!」と何度もお辞儀しながらお酒を売ってくれたのである。新商品に賭けている感じが伝わってきて好感がもてた。なのでその後も贔屓にしていたのである。
『月丸』かつて八王子の街中、甲州街道沿いの目立つ場所に立派な酒蔵を持っていた西岡酒造のお酒である。その蔵は今、不動産の会社が使っている。
看板と杉玉を降ろしてしまって、酒店でもすっかり見なくなってしまっていたので廃業したのだと思っていた。
なんでも八王子の水が酒造りに適さないようになってきたので若奥さんの実家、福井県の河村酒造と合併して西岡河村酒造となって福井で月丸を製造しているのだという。
お酒を買ったらおまけに来年の干支のストラップをくれた。
ストラップは市守大鳥神社のお守りだった。この神社も市守神社と大鳥神社が合併した体になっている。
いい話ですなー。
あのころ変化球の酒が好きだった私ですが、最近は直球の良さに魅かれております。今宵呑んでいる月丸も確かにあの時の直球のままでした