kouzi_2007~

発火村塾 established 2007

大宇宙の第怪魔 第一話

2015-02-11 11:07:19 | 連続小説
エヌ氏は電車を待っていた。ホームの時計をみて、腕時計でも確認した。あと2分で快速が来る。上り方面の線路の先をみつめる。
「もしもし」背後から声をかけられエヌ氏はふりむいた。そこにはみすぼらしい服を着て両手にたくさんの荷物をぶら下げた小柄な老人が立っていた。
「次の電車に乗るのはよしなさい。」
白髪で眉もヒゲも長く伸び、耳の穴からも白い毛が豪快に出ている。
エヌ氏は老人の真意をはかろうとしてその目をのぞきこんだ。厚い眉毛の下のその目は、開いているのか閉じているのか、それほどに細い。
「遠回りが吉であることもあるのだ。」
老人の口元は奔放なヒゲだけが上下して声を発しているかの様だ。エヌ氏はなぜ無視しなかったのかと後悔したが、もはや手遅れである。
「たとえば・・・事故とか?」
老人はなにも答えなかった。エヌ氏は平静さを失った。目玉がキョロキョロ動き、冷たい汗が噴きだし体が硬直した。足が、足が動かない。脳内でいくつものパルスが交錯して目の前がチカチカした。眩い光が近づいて来る。電車だ。電車が到着したのだ。突然警笛が鳴り轟いた。エヌ氏は腰を抜かしよろめき尻餅をついた。



エヌ氏の妻エス子はテレビを見ていた。息子と娘は先に夕食を済ませ、息子は自室に入り、娘はエス子と共にテレビを見ていた。固定電話のベルが鳴る。エス子と娘は顔を見合わせた。エス子が手のひらを軽くあげて娘を制して立ち上がり受話器を取った。
「こちらは世界平和推進協会の者でございます。いま世界は未曾有の危機に直面しております。戦争、環境破壊、差別や貧富の差、その他解決の難しいさまざまな問題がございます。当協会ではキャンペーンを行い寄付をつのっております。特典といたしましては通常の半額から寄付を受け付けてございます。便利なコンビニ払いもご利用いただけま」
エス子は電話を切った。心配そうな顔の娘に笑顔を作ってみせた。
「勧誘だったわ」
「そう・・・お父さん遅いわね。」
その瞬間、また電話が鳴った。エス子はさっき作った笑顔をおどけた表情変えてみせ、受話器を取った。 

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