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血液専門医・総合内科専門医の17年目医師が、日常生活や医療制度、趣味などに関して記載します。現在、コメント承認制です。

僕の発作性夜間血色素尿症(PNH)の説明(患者さん向け)

2017-12-09 20:00:00 | 患者さん用(説明の仕方シリーズ2017年版)

発作性夜間血色素尿症(PNH)は溶血性貧血(血管内溶血)による症状と、血栓症(血管内で溶血した時に発生する「遊離ヘモグロビン」や一酸化窒素、血小板活性化、線容系の障害などが言われていますが、メカニズムは置いておきましょう)、造血不全(血液が作れない)が問題になります。

 

特に血栓症が死因の半数とも言われています。欧米は多いけど、日本はそこまで多くないような気もしますが、血栓症を起こす人は繰り返す傾向があります。動脈血栓(例えば・・腸間膜動脈が閉塞→強い腹痛と腐りかけた腸から細菌が入ってきたり、脳梗塞を起こしたり)も静脈血栓(深部静脈血栓、そこからの肺塞栓症)も問題になります。

 

また、再生不良性貧血から移行してくる患者さんが35〜40%くらいいます。それも合わせて造血不全が問題になることもあります。

 

血管内溶血はそれが原因で腎不全を起こすこともあります。

 

病気の原因は赤血球の表面にあるCD55、CD59という「補体」というものから守る因子がなくなることです。この原因遺伝子はPIGA遺伝子と言いますが、これを赤血球表面に結びつけている「錨(いかり、アンカー)」がおかしくなって、表面からなくなってしまいます。

 

治療は完治させるためには「造血幹細胞移植」になります。おかしな血液を作るようになったら、全て取り替えるしかないので。若年で造血不全が中心の患者さんでは選択肢になります。一方、エクリズマブという補体のC5というものを抑える抗体が溶血や血栓症に対しては有効です。

ちなみにエクリズマブがない時代はステロイドを使用していました。ステロイドは補体の産生を抑える働きもあるため、溶血を抑えることができます。血栓症がある場合はどうなのか・・・血栓のリスクにもなりそうと思ったりして・・・。

 

 

病気が難しいので、先に説明が長くなってしまいました。

 

では、患者さんに対しての説明を書いていってみたいと思います。

 

 


 

Gさんは少し前から貧血を自覚していたところに、風邪を引いた後、赤い尿が出たということで近くの病院を受診されました。そこでは白血球減少と貧血を認めていたため、血液疾患が疑われて当科に紹介となりました。

 

先ほど行なった血液検査では白血球が3800/µl、赤血球 300万/µlでヘモグロビン 8g/dl、血小板が23万/µlと軽度の白血球減少と貧血を認めました。他の検査結果で異常になっているものとして、LDH(乳酸脱水素酵素)が1800 IU/L 網状赤血球が5.2%となっています。この時点でGさんは溶血性貧血が疑わしいです。赤い尿が出たということですが、腎臓の数値は悪くはなっていないようです。

 

Gさん:溶血性貧血とはなんでしょうか?

 

溶血性貧血というのは、赤血球を作る能力があるにも関わらず、体の中で赤血球が壊されてしまうために貧血が進むものを言います。LDHという値は血液が壊れた時に上がったりするのですが、その値が正常値の8倍くらいになっています。加えて網状赤血球というのは「できたばかりの赤血球」を言います。通常は1%前後(0.5~2%と言います。赤血球の寿命は120日、個数が400万から450万です。網状赤血球は血液中に出てきて2~3日のものです。450/(120×3)=1.25%くらい)ですが、今は5.2%なのでかなり頑張って赤血球を作っています(PNHでヘモグロビン尿が出るのは初診の33.5%となっています。これがあると腎臓に負担がかかり、腎機能が悪化します)。

 

Gさん:赤血球が壊れて貧血になっているのですね?

 

はい。その赤血球が壊れる原因ですが、今いくつかの検査を出しています。一つはすでにでていますが、クームス試験というものを行いました。これは体の中で赤血球を壊す物質(抗体)があるかを調べる検査です。今回の検査では陰性でした。たまに検査で引っかかってこない人がいますので、まだわかりませんがいくつかのことを考えると、多分この検査は異常なしで良さそうです。

 

Gさん:他の原因はどのようなものがありますか?

 

赤血球自体が壊れやすくなっている場合や血管内で赤血球が物理的に壊れやすいような状況(後述しますが、TTPやDIC、心臓の弁膜症で機械弁になっているなど)で起きたりします。

 

物理的に赤血球が壊れやすい場合は、赤血球が壊れたようなもの(破砕赤血球)が増えます。今回、それは認めていないので、物理的に赤血球が壊れやすいわけではないと考えています。

 

Gさん:そうすると私の場合は「赤血球が壊れやすい」ようになっているということでしょうか?

 

Gさんは今までに健康診断などで貧血や溶血などを指摘されたことはありませんか?

 

Gさん:ハイ。ありません。

 

そうすると生まれつき赤血球が壊れやすいということはなさそうです。今回はたまたまそういう赤血球が増えるようになってしまったと考えて、いくつか検査をしたいと思います。ただし、検査結果はすぐには出ませんので、今回は検査を出して、結果が出たらご説明という形にさせてください。

 

Gさん:わかりました。それまでは注意することはありますか?

 

少し水を多めに飲むことと、赤い尿がまた出るようでしたら受診してください。腎臓が悪くなることがありますので、必要な治療を行います。

 

(数日後、結果説明です)

 

Gさん:結果はいかがでしたでしょうか?

 

はい。診断はつきました。診断を先に申しますと、発作性夜間血色素尿症という病気です。この病気は本来体を守る「補体」という物質があります。これは血液中に常にあり、最近などから体を守ってくれます。その補体が体に悪影響を与えないように、その機能を抑える物質があるのですが、それが赤血球の表面からなくなっています。

 

この検査がそれを確認した検査ですが、CD55という物質とCD59という物質、両方が赤血球表面からなくなっているものが15%くらいあります。また、ハプトグロビンは10未満と溶血性貧血であることを再確認しています。

Ham試験、砂糖水試験も行いましたが、これはともに補体をわざと活性化させるものですが、ともに陽性になりました。

 

 

Gさん:PNHとはどのような症状が出るのでしょうか?

 

PNHは先ほど言いましたように体の中にある赤血球の防御力が低下したようなものです。それによって血管内で赤血球が壊れてしまいます。その結果貧血の症状が出ます。他にこの病気は全ての血液が減っていくことがあります。骨髄不全型と言いますが、その場合は抵抗力が低下したりすることがあります。また、これも命に関わることがありますが、体の中に血栓症が起きることがあります。血栓症というのは動脈で起きた場合は「脳梗塞」などを起こします。静脈で起きた場合は「深部静脈血栓症」、俗にいうエコノミークラス症候群のようなものを起こして、肺血栓塞栓症を引き起こしたりします。

 

この病気の特徴は「溶血性貧血」「血液がうまく作れなくなる(造血不全)」「血栓症」です。

 

Gさん:治療はどういったものがありますか?

 

Gさんは高度の溶血がありますが、他の血球はあまり減っていません。この後骨髄の検査も行いますが、造血不全型ではないと考えます。血栓症も今はありませんし(診断後2〜3年で血栓症を起こすことがあります)、状況を見ながら予防薬などを検討します。

 

この病気の治療は完治させるためには同種骨髄移植しかありません。おかしな血液を作るようになったら、大元から変えるしかないのです。しかし、この病気は高度の造血不全にならなければ、20〜30年は生きられると言われています。骨髄移植は命に関わる合併症を引き起こす可能性があるので、血球減少が高度に進んでいる場合と様々な合併症を繰り返したりする場合、後で述べる治療を継続するのが難しい場合などになると思います(移植は限られた患者さんのみ)。

 

他の治療ですが、まず溶血に関してはステロイド剤が効果を発揮します。この薬は免疫抑制剤になりますが、補体というものを減らしてくれます。それで溶血を抑えてくれますが、正常な抵抗力も下がってしまいます。そのため、安定したら徐々に減らして維持していきます。使う量が多い場合は抵抗力がかなり減ってしまうので、感染症などに注意が必要です。また、胃潰瘍や糖尿病、緑内障や白内障など様々なリスクになります。ただ、後で述べる治療薬と比べると非常に安いです。

 

溶血や血栓症に著効する薬が「エクリズマブ」です。これは原因である「補体」を抑える効果があります。他の免疫力には悪影響を及ぼしませんが、補体が守る中心になっているもの(髄膜炎菌、肺炎球菌、インフルエンザ桿菌など)が増えます(http://www.soliris.jp/common/pdf/Soliris_Tempu_Bunsho_07.pdf)。

この薬は非常に高額で1年に3000~4000万の医療費がかかります(もちろん、高額療養費は引っかかります)。

 

造血不全が前面に立っている場合は、再生不良性貧血という病気と同じような治療(免疫抑制剤:シクロスポリンや抗ヒト胸腺細胞グロブリン(ATG))を行います。

 

今回、LDHの上昇はありますが、貧血の進行はなく中等症になります。溶血性貧血が主体なので、ステロイド剤でも良いかなと思っております。

 

Gさん:だいたいわかりました。宜しくお願いします。

 

この病気は風邪をひいたり、Gさんの免疫が活性化する事態が起こると補体も増えますので、溶血したりします。その場合は先日も申し上げましたが、腎臓が悪くなる可能性があります。赤い尿が出るなど、異変がありましたら連絡をしてください。


 

 

こんな感じの説明になると思います。

結構長くなりました。PNHは100万人あたり3.6人の発症頻度なので、再生不良性貧血より少し少ないくらいなのですが、再生不良性貧血よりは見る頻度がかなり少ない印象があります(僕だけかしら?)。最初に書きましたが、再生不良性貧血の経過中に溶血を起こす患者さんもいます。再生不良性貧血の方で尿が赤くなったりした場合(その前に血液検査で医師が異常に気がつくかもしれませんが)は主治医に伝えるようにしてください。

 

いつも読んでいただいてありがとうございます。今後もよろしくお願いいたします。

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それでは、また

 

 

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