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血液専門医・総合内科専門医の17年目医師が、日常生活や医療制度、趣味などに関して記載します。現在、コメント承認制です。

僕の慢性リンパ性白血病の説明(患者さん向け)

2017-12-06 20:00:00 | 患者さん用(説明の仕方シリーズ2017年版)

こんばんは。

引き続き患者さん向けの記事を書いていきます。今回は慢性リンパ性白血病を書いていきたいと思います。

 

慢性リンパ性白血病は一般には成熟した「B細胞」の腫瘍性増殖が起きている病気です。血液検査ではリンパ球が増加しますが、血液像では腫瘍細胞かどうかはわかりません。そこでフローサイトメトリーを用いて腫瘍かどうかを判断します。診断した後は治せる病気であれば、すぐ治療開始ですが、今の時点では完治というよりは共存を狙う病気のため、病気によって患者さんが何らかの不利益を受けている時に治療を開始します。CLLも最近治療が進んできている病気の1つです。

 

それでは、患者さん向けの説明を書いていきたいと思います。

 


 

Cさんは今回、健康診断白血球が20000/µlと増加しているということで、当院に紹介になりました。初診時には特別困っているような症状はないということでしたが、今もお変わりはありませんか?

 

Cさん:はい。特に調子の悪いところはありません。

 

では、検査結果の説明と診断結果の説明をさせていただきます。

 

まず、診断結果ですが、「慢性リンパ性白血病」という病気と診断しました。これは白血球の中のリンパ球という成分、特にB細胞というグループが腫瘍化した病気です。

 

今も症状がないということですが、慢性リンパ性白血病の細胞はゆっくりと増殖し、年単位で経過します。

まず、診断の根拠ですが、最初に白血球が20000/µlということですが、リンパ球という成分がそのうちの65%、13000/µlとなっています。普通はリンパ球というものは2000~4000/µlくらいですのでかなり増えています。この増えているリンパ球を顕微鏡で見ても、正常なものと異常なものの区別がつきませんでした。

 

急性リンパ性白血病では「芽球」と呼ばれる未熟な白血球が増えますし、悪性リンパ腫の細胞が血液中を流れ出す時もありますが、これは見た感じが「普通ではない」ので大体推測ができます。今回、見た目はほとんど正常という特徴があります。そのため追加の検査を行いました。

 

表面抗原解析という検査ですが、この増えているリンパ球の特徴を示す検査です。これでCD5というアンテナとCD23というアンテナを持ち、κ鎖を持ったBリンパ球が増えていることがわかりました。これが腫瘍(白血病)であるという理由は、一般的にB細胞というのはランダムに「κ」というものと「λ」というものを選んで生まれてきます。実際は少しκの方が確率は高いのですが、ほぼ1:1になるのが基本です。そのため、1:3以上の乖離があるのは異常とされています。今回この細胞集団はκが87.5%で、λが6.2%ですので10倍以上の開きがあります。この結果からκというアンテナを持つものが勝手に増えていて、優勢になったと判断しています(これは悪性リンパ腫でも同じように判断します)。

 

Bリンパ球の数が5000/µl以上で、それがCD5陽性CD23陽性(CD20は弱陽性)の腫瘍であれば慢性リンパ性白血病の診断基準を満たします。

 

Cさん:この病気を治すことはできますか?治療法はありますか?

 

治療法はありますが、今の医学では完治というのは難しいです。この病気は「共存」を目標に今は治療を行なっています。そのため、治療開始のタイミングを見極めることが重要です。

 

早く治療を行えば直しやすい固形癌と違い、早くやっても体に負担をかけるだけで治療効果は乏しいですが、病気が悪くなってからの治療は有効です。

 

 

 

 

Cさん:病気が悪くなるのを待つのですか?

 

そう思われたのであれば、誤解を招いたかもしれません。細かい治療法については後ほどご説明いたしますが、この病気はゆっくり進んでいきます。そして今は治せる治療法はありませんが、様々な薬が開発されてきています。

 

今、無理に治療をして、後々出てきた良い薬に体が耐えられなくなるのではなく、体の状態を温存しながら必要な時に治療を行い、時を稼いでいると思ってください。今、治療をしても体の負担が大きく、メリットよりデメリットの方が大きいのです。Cさんの体の状態に合わせて、その時の最良の治療を行います。

 

Cさん:宜しく御願い致します。

 

今、慢性リンパ性白血病の診断についてはお伝えしました。次に病気の状態を説明いたします。Cさんの血液検査の結果では、リンパ球は増加していますが、貧血はなく、血小板減少もありません。寝汗などの症状もなく、体調も悪くない状態です。CTでは腹腔内に2cmほどのリンパ節が数個ありますが、他の領域には病変はありません。

 

改訂Rai分類では中間リスク(Rai分類ではI期)になります(Binet分類もありますが、どちらかを使用します)。

 

 

そうすると10年以上の予後が見積もられます。医学の発展によって、さらに伸びる可能性がありますので、今の数字は参考と思ってください。

 

Cさん:わかりました。まだ、病状はそれほど進行していないということですね。

 

はい。まず、貧血や血小板減少などが起きたり、時折起こる自己免疫疾患(自己免疫性溶血性貧血や特発性血小板減少性紫斑病などを合併します)などを発症したり、リンパ節など「固まっている腫瘍」が大きくなって、何らかの症状を来したりしない限りは、治療は基本的に行いません。リンパ球の増加速度が速くなっても治療を行います(CLL治療開始基準を参考)。

あと、今検査待ちをしていますが、17p欠失(p53欠失)という異常があった場合は治療を検討します。

 

Cさん:具体的に治療法はどのようなものがあるのでしょうか?

 

今すぐ治療を行うわけではありませんので、何とも言えません。Cさんは今60歳ですので、今すぐ治療を行うならば「フルダラビン」という薬を用いた治療も適応があります。日本では商人はされていませんが、FCR療法(フルダラビン、シクロホスファミド、リツキシマブ)による治療を行ったりします。もしくは、高齢で合併症がなければベンダムスチン+リツキシマブなども選択肢に入りますが、日本ではこの治療も再発に対しての適応になります。その時の状況によりますが、65歳未満であればこのフルダラビンを併用した治療は考えられます。

 

他に65歳以上で合併症がある場合などはオファツムマブ(抗CD20抗体の1つ)を併用した治療なども考えられますが、これも日本では再発・難治に対しての治療ですので、最初は使用できません。

 

Cさん:制限が多いのですね。

 

日本では制限は多いのですが、必要があれば内服の抗がん剤などを加えて(外国だとクロラムブシルですが、日本では使えないためシクロホスファミドの内服治療などをしたりします)、その後こういった治療薬を加えることもあります。その時の主治医次第です。

 

また、先ほどお伝えした17p欠失などがある場合はイブルチニブという最も新しい内服薬が一番効くとされています。ただ、これも再発難治が基本的に適応になっています。

 

いずれにせよ、今すぐに治療をするわけではありません。将来的には初回から使えるようになるかもしれませんし、さらに良い薬(いろいろ出てきそうな領域です)も使えるようになるかもしれません。

 

今は検査結果を確認し、病気の進行速度やCさんの症状を確認しながら、治療のタイミングを見極めていきましょう

 


 

 

こんな感じになると思います。

慢性リンパ性白血病は今、新しい治療法の開発が進んできている領域の一つです。

 

本文中にも記載しましたが、イブルチニブの有効性は非常に高いですし、若年者で17p欠失がない患者さんではFCRは長期の寛解をもたらすと言われています。他にもアレムツズマブ、オファツムマブなどの抗体医薬(実はリツキシマブが保険適応ではないです)、ベンダムスチンなども加わってきました。

 

日本ではまだ認められていませんが、イデラリシブ(PI3K阻害薬)やベネトクラックス(bcl-2阻害薬)などもあります。実はレナリドミドも海外では臨床試験がされていたりしますし、今後もいろいろ開発されるのだろうと思います。

 

 

臨床現場にいないため、今の時点ではこんな説明になるかなと思っております。お役に立てたら嬉しく思います

 

いつも読んでいただいてありがとうございます。今後もよろしくお願いいたします。

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それでは、また。

 

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4 コメント

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Unknown (よつこ)
2018-01-11 22:23:33
アンフェタミン先生、こんにちは
いつもブログで分かりやすい説明、本当にありがとうございます。
この回では、CLLについて説明して頂いたのですが、似ているSLLについて、違いや治療など教えて頂けないでしょうか。
友人は、2年前R-CHOPを4クール治療しました。そのあと経過観察だったのですが(濾胞性リンパ腫だと思っていました)11月にシコリができ、貧血症状が出たことから、治療を勧められました。
SLLは希少なのか情報が少なくて・・・
患者は60代前半で、自覚症状はなく、仕事もされています。
返信する
同じものです (アンフェタミン)
2018-01-14 10:01:44
>よつこさん
おはようございます。コメントありがとうございます。

CLLはSLLと同じものと考えていただいて良いです。CLLは血液中に一定の腫瘍細胞が流れていることが定義で、同じものがリンパ節だけにいるものがSLLになります。

参考として血液学会のガイドラインを添付します。
http://www.jshem.or.jp/gui-hemali/1_5.html

ですので、SLLであればCLLと同じような治療が推奨されます。

このような情報でよろしかったでしょうか?

また、コメントいただければと存じます
返信する
Unknown (よつこ)
2018-01-14 12:15:24
アンフェタミン先生
ご回答いただき、ありがとうございます。
血液学会のガイドラインも見たのですが、いまひとつ分からず、こちらに質問させて頂いた次第です。
知人は、再発の治療をR-CHOPを勧められたそうですが、本人の希望でR-Bに決めたそうです。
1年半前の初回治療は、R-CHOP4クールでした。
CLLが白血病というよりリンパ腫より、という感じなのですね。
返信する
CLLのリンパ腫だけという感じです (アンフェタミン)
2018-01-16 17:35:11
>よつこさん
こんばんは、コメントありがとうございます。

R-BであればCLL/SLLでも良いと思います。
濾胞性リンパ腫であればR-CHOPは最初の選択肢として良いと思いますが、SLLとわかったのであればR-Bの方が良いと思います。

おっしゃられるようにSLLはCLLがリンパ腫になったようなものです。

また、コメントいただければと存じます
返信する

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