新・眠らない医者の人生探求劇場・・・夢果たすまで

血液専門医・総合内科専門医の17年目医師が、日常生活や医療制度、趣味などに関して記載します。現在、コメント承認制です。

僕の赤芽球ろうの説明(患者さん向け)

2017-12-10 20:00:00 | 患者さん用(説明の仕方シリーズ2017年版)

赤芽球ろうは100万人あたり0.3人と非常にまれな病気です。

 

赤芽球ろうは「赤血球系」のみが自己免疫でやられてしまう病気です。あくまで抵抗力や止血能力は正常です。

 

貧血や網状赤血球の著減が血液検査では認められ、骨髄の検査をしても赤血球系の細胞がない。赤血球を作れと言っても反応がないので、腎臓から出るエリスロポエチン(赤血球を作れと指令する物質)が著増しています。

 

この病気は病型診断が結構重要で、特発性なのか、胸腺種関連なのか、リンパ系腫瘍が関連しているのかは重要です。

 

それでは、簡単に説明を書いてみます。

 


 

Hさんは1〜2ヶ月前から動悸や息切れを自覚されていて、近くの病院を受診されたら高度の貧血があるということで、当科に紹介となりました。

 

クリニックの検査では白血球は4000/µl、ヘモグロビン(Hb)は6g/dl、血小板は30万/µlということで貧血のみが目立つデータでした。

 

当科で追加の検査を行ったところ、網状赤血球という若い赤血球が0.1%しかなく、実数としては1000~2000/µlしかありませんでした。これは赤血球を作る力を反映していますので、赤血球を作る力がないことを示しています。

 

他、血液像と言われる顕微鏡で血液の細胞を確認する検査では明らかな異常はありませんでした。

 

ちなみに、息切れを自覚される前に風邪をひいたり、何か新しい薬を飲むようになったりはしませんでしたか?

Hさん:もう2ヶ月前のことですので、あまり覚えていませんが、風邪はひいていませんし、体調が悪くなった記憶もないです。薬は特に飲んでいません。

 

なるほど、今の時点では「赤芽球ろう」という病気を疑っていますが、他の血液の病気ではないことを確認するために、骨髄の検査が必要です。症状もあり、高度の貧血ですので、もしよろしければ入院して輸血の準備をしている間に、そのような検査をさせていただけますとありがたいのですが。

 

Hさん:宜しく御願い致します。

 

(輸血の準備中に骨髄の検査を行い、輸血を受けいている患者さんに簡単な説明をします。)

 

Hさん、先ほどの骨髄の検査を少し確認してきました。正確な検査結果はしばらくのちに出てきますが、少し説明をさせていただきます。

 

骨髄の検査をしたところ、芽球と呼ばれる白血病細胞が増えているようなことはなく、明らかな形態異常を示す細胞もありませんでした。基本的に骨髄の密度は正常範囲内だと思いますが、赤血球系の細胞はほとんどいませんでした(5%未満が多い)。現時点では赤芽球ろうの可能性が最も高いです。

次の外来の時に他の検査結果も合わせて説明します。

 

Hさん:宜しく御願い致します。

 

(1週間後の外来で)

 

先日、高度の貧血で受診され、血液検査や骨髄の検査を受けていただきました。本日はその説明ですが、まず血液検査で先日は結果が出ていなかったものの1つにエリスロポエチンというものがあります。これは腎臓から出される「赤血球を作らせる命令」因子です。これが少なければ、エリスロポエチンが出ないために骨髄は血液を作らない状態にあります。一方、高くなっているようであれば、どれだけ命令しても赤血球を作らないので、異常に高くなっているということになります。

エリスロポエチンは5000 mU/mlと著増していました。

 

 

 

骨髄の検査結果は先日述べた通りです。このあと染色体検査は遅れて帰ってきますが、病状として赤芽球ろうで良いと思います。

 

赤芽球ろうは「赤血球系前駆細胞」がHさんの抵抗力に攻撃を受けて、赤血球が作れなくなる病気です。抵抗力の暴走で貧血が進むわけです。

 

その原因としてウイルスや薬などがありますので、先日少しお話を伺いましたが、記憶の範囲ではないというお話でした。

 

Hさん:はい、特になかったと思います。

 

残りなんですが、この病気は時々「胸腺腫」という病気と合併したり、リンパ系腫瘍と合併したりします(多いのは大顆粒リンパ球性白血病:LGL)。胸腺腫などのスクリーニングのためにCT検査を行わせていただきたいです。

 

Hさん:わかりました。いつ行いますか?

 

治療は早めに開始したいので、今日取れるように頼んでみます。

 

(HさんがCT検査を終えて帰ってきます)

 

CT検査では胸腺腫やリンパ節の腫大は認めませんでした。血液検査でもリンパ球の増加はなく、CD4/8比も正常であり、特発性赤芽球ろうと診断します。

 

Hさん:治療はどのようなものがありますか?

 

基本的にはシクロスポリンというT細胞というものを抑える薬を使用します。この病気はT細胞が赤血球系の細胞を攻撃して起こします。それを抑える薬です。

 

 

わかりました。宜しくお願いします。

 


 

こんな感じでしょうか。実際は薬の副作用など、さらに説明をします。2つの表が出ていますが、概ね初回治療の反応は悪くありません

 

胸腺腫があったら、摘出するのが基本になります。LGL関連の場合はそっちを潰しに行く方が良いという話もあります。まれな病気ですので、主治医の先生とよく相談して治療に当たる必要はあると思います。

 

少しでも患者さんのお役に立てれば幸いです。

 

 

いつも読んでいただいてありがとうございます。今後もよろしくお願いいたします。

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それでは、また。

 

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18 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (フリージア)
2017-12-10 21:57:05
先生、初めまして。
PVと診断されて6年になる54歳の女性です。
現在、血球値はどんどん下がってほぼ基準値内に入っており、2年半ほど瀉血はしていません。
自分としては移行期に入っているのでは?と思います。
(主治医には何も言われておりません)

ジャカビが保険適用になってから、骨髄線維症やPVの治療や予後は劇的に変わったと思います。
アメリカでは新薬の開発も進んでいると聞きます。
骨髄増殖性腫瘍に関して、最新の治療法をご説明いただければ幸いです。

返信する
骨髄の検査を (アンフェタミン)
2017-12-12 05:02:05
>フリージアさん
おはようございます。初めまして。コメントありがとうございます。

PVと診断されて、年齢を考えると当初は瀉血のみで経過を見ていたところ、瀉血の必要性がなくなってきたということでよろしいでしょうか。

移行期・・とは言いませんが、多血症後骨髄線維症の診断基準の1つを満たしてしまっております。

フリージアさんの場合は、一度骨髄生検を行う必要はあると思います。他に血液検査で白赤芽球症や5cm以上の脾腫、B症状の有無は確認しなくてはなりません。

すでに真性多血症の記事は作成済みなので、この後公開しておきます。

また、コメントいただければと存じます
返信する
Unknown (フリージア)
2017-12-12 18:02:18
先生、こんばんは。
早速のご回答、また再度PVの記事のアップ、ありがとうございます。
感謝致します。

はい、診断当初は毎回瀉血していましたが、段々間隔が空き、最後の瀉血から2年半が経過している状況です。
この間のHTは42~45%台です。

もう骨髄線維症に移行したと考えた方が良いのですね。

PVの確定診断からは6年ですが、その5年前に同じ病院で乳腺線維症の手術を受けた際、既にその兆候は出ていたそうです(確定診断の時に初めて聞きました)。

ですので、発症から少なくても11年は経過し、そろそろ‥という不安はあったものの、主治医の先生は「病状は落ち着いている」との見解ですので、骨髄線維症とは思っておりませんでした。
少しショックです(^^;)

先月CTを撮った際、「脾腫はあるが大きさは2年前とほぼ変わっていない」と言われました。
何cmか聞いておりません。
ブラストはいつも0、0ですので安心していました。

骨髄生検とその他の血液検査を行った方が良いのですね。
主治医の先生に話してみようと思います。

ありがとうございます。





返信する
Unknown (アンフェタミン)
2017-12-12 20:27:09
>フリージアさん
こんばんは、コメントありがとうございます。

骨髄生検は検討する必要はありますし、僕ならば確認のために一度して見ましょうと言いますが、可能性が高いと悲観する必要はありません。

女性の場合は瀉血+生理で鉄欠乏状態になると、多血症から離脱する可能性ああります。全てのデータを僕が持っていれば対応は可能ですが、フェリチンやMCVなどのデータによっては「鉄欠乏」により多血ではなくなった可能性もあります。

色々なデータで評価をしますので、ぜひ主治医の先生とよく相談していただければと存じます。

また、コメントいただければと存じます
返信する
ありがとうございます。 (フリージア)
2017-12-12 23:20:59
ご丁寧に再度のお返事を、ありがとうございます。

今の時点で悲観する必要はないのですね。

PVは治らないものと思っていましたが、離脱することもあるのですか。

フェリチンは検査項目にないのでわかりませんが、MCVは当初72程度でしたが、ここ2年ほどは82~85くらいです。
5年ほど前に閉経しています。

基準値内の項目が増え、主治医は安定しているとの見方の様ですが、離脱しているのか、或いは進行しているのか、やはり生検した方が良いですよね。

こちらで先生に話を聞いて戴き、真摯なご回答を戴き、本当に良かったです。
ありがとうございました。
返信する
骨髄生検をお勧めします (アンフェタミン)
2017-12-13 20:49:29
>フリージアさん
こんばんは、コメントありがとうございます。

悲観する必要は全くないと思いますが、大丈夫という意味ではありません。
基本的に血栓症が起きる病気ですので、その心配が減るのが一番です。

多血症から離脱と書きましたのは、鉄欠乏になりますと血液をうまく作れなくなり離脱することがあるという意味です。鉄欠乏が続けば本来は貧血になりますが、この病気では勝手に作ってしまいます。そのため小球性の赤血球で、正常なヘモグロビンレベルになることがあります。これがよくないという方もいますが、僕はこの状態にしてアスピリンで様子を見ていた患者さんもいます。
最初のMCV 72flくらいでヘマトクリットが増えすぎないように様子を見ていたという話です。

嫌なことを書きますが、僕はフリージアさんの状況ならば確実に生検します。MCV 82だったのがMCV 72になって落ち着いたというのであれば、鉄欠乏状態になり瀉血が不要になったという可能性もあると考えていました。今回は逆ですので、鉄欠乏などの原因以外で赤血球産生が落ちている可能性を考えなくてはいけません。

インターネットで調べて不安になったので、一度調べて見たいと主治医の先生と相談して見ていただければと存じます。ただ、主治医の先生と人間関係を維持することを優先していただければと存じます。

また、コメントいただければと存じます
返信する
ありがとうございます。 (フリージア)
2017-12-13 23:08:11
先生、こんばんは。
再度お返事、ありがとうございます。

Hbは14,1ありますので、鉄欠乏ではないと思います。
やはり、骨髄の線維化が疑われるのですね。
11年になりますし、最近の数値からも自分自身疑ってはいました。

主治医の先生は信頼できる優しい女医さんで、私の発言で気を悪くされることはないと思います。

ただいつも込み合い、重篤な患者さんも多い中、私の様な状況で時間を取って戴くのは心苦しく思っておりました。
マルクや生検は痛いから黙っておこう、との気持ちも少し‥いえ、かなり大きかったです。笑

悲観せず、楽観もせず、「インターネットで調べて不安になったので」との言い方は切り出し易いですので、次の診察の際、話してみようと思います。

貴重なアドバイス、本当にありがとうございます。
返信する
やらないかもしれません (アンフェタミン)
2017-12-14 06:23:12
>フリージアさん
おはようございます。コメントありがとうございます。

おっしゃられる通りで鉄欠乏はないと思います。鉄欠乏状態になるとMCVという値が小さくなります。小さかった値が大きくなってきたので、閉経に伴い鉄欠乏が改善したものと推測します。

Hb 14.1 g/dlであれば貧血もないので、慌てて骨髄生検をしなくても良いかもしれませんが、軽度の繊維化がある可能性はあると思います。
貧血もないのに骨髄生検をしても「軽度の線維化はあるけど、症状の進行はないから注意深く様子を見ていきましょう」で終わる可能性が高いと思います。

勝手なイメージでHb 12g/dl前後、もしくは未満かと思いました。

ただ、今まで書いてきたように瀉血が不要になっているというのは、閉経も合わせて「線維化」などは考慮すべき問題だと思いますので、主治医の先生と相談してみてください。
主治医の先生が「まだ、必要ない」とおっしゃった場合は、基本的に「結果がどっちでも、まだ治療法は変わらないから、痛い思いをさせる明け検査の無駄」と判断したと思います。

参考になれば嬉しく思います。

また、コメントいただければと存じます
返信する
ご回答ありがとうございます。 (フリージア)
2017-12-14 20:24:27
先生、こんばんは。
何度も丁寧なお返事を、ありがとうございます。
先生の仰いますこと、よく理解できました。

軽度の線維化の状態で数年過ごせれば、と思います。
ジャカビやアメリカで治験中という新薬の存在が
心強いです。

次回、主治医の先生に話してみた上で、アンフェタミン先生にまたこちらへ報告に上がりたいと存じます。

誠にありがとうございました。
返信する
お役に立てれば嬉しいです (アンフェタミン)
2017-12-14 20:49:26
>フリージアさん
こんばんは、コメントありがとうございます。

線維化が進まないのが一番だと思いますが、治療薬の発展には期待したいです。良い状態を維持して頑張ってください。

少しでもお役に立てればうれしく思います。

また、コメントいただければと存じます
返信する

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