真性多血症は赤血球を中心に血液が勝手に(腫瘍性に)増える病気です。赤血球は酸素を運搬する重要なものです。スポーツ選手ではこれを増やすために高地トレーニングをしたりするわけですが、高すぎると不具合もあります。
赤血球は他の血液細胞と異なり、すごく多いわけです。赤血球 450万/µl・・・白血球は 4000/µlと桁が違います。これがどんどん増えていくとどうなるか、水に固形物を増やしていく感じです。片栗粉を水に入れていけば、ドロドロになります。
多血症で問題になるのは「血液がドロドロになった結果、血栓症が起きやすくなる」ことです。よく脂質異常症などで「血液がドロドロ」という表現をしますが、あれは血管が細くなっていくこと(病気)を反映してのセリフだと思います。結局、リポタンパクの形でコレステロールも水に溶けていますしね。中性脂肪が高くなりすぎて白くなるというのはありますが(笑
物理的にドロドロといえば多血症です。
真性多血症(真性赤血球増加症:PV)はJAK2遺伝子の異常をほとんどの患者さんで認めるとされています。そのため2016年度のWHO改訂では診断基準の1つになりました。
基本的に血栓症予防が重要な疾患ですので、治療は赤血球の数(この場合は特にヘマトクリット)をコントロールするハイドロキシウレアや瀉血、血栓を予防するアスピリンが主な治療薬です。JAK2が原因遺伝子なので、ルキソリチニブ(ジャカビ)がこれらの治療薬で有効ではない時には使用できますが、あまり使いたいとは思いません。
(以前書いた記事はこちら骨髄増殖性疾患(真性多血症)の説明(患者さん向け))
では、患者さん向けの説明の仕方を書いていってみたいと思います。
Kさんはこの度、白血球増加、赤血球増加、血小板増加と全ての血液の数値が増えているため、血液疾患が疑われて当院に紹介となりました。
血液検査では白血球 15000/µl、赤血球数 750万/µl、ヘモグロビン(Hb) 18.9 g/dl、ヘマトクリット(Ht)は57%、血小板数は70万/µlとなっていました。他の検査結果できになるものとしては乳酸脱水素酵素(LDH)が350 IU/Lと高いこと、尿酸値が9.2 mg/dl、ビタミンB12が1500pg/ml以上というものがあります。
Kさん:何か悪い病気でしょうか?
今、それを確認しておりますが、血液像と呼ばれる「顕微鏡」で血液を見た検査結果では骨髄球が1.0%、後骨髄球が2.0%、桿状核球 20%、分葉核球 65%,
好酸球2.0%、好塩基球 0%、リンパ球10.0%となっています。少なくとも白血病細胞と言われるような「芽球」の増加は認めません。
(芽球が増えていたら、線維化が起きているなど色々考えます)
いくつかの病気を判断するために、本日は出ない検査を行なっておりますが、血液疾患の可能性は高いので、検査結果が出る前に骨髄の検査の計画も立ててしまいたいと思います。
(後日、血液検査、骨髄検査の結果説明)
Kさん、本日は今まで行なってきた検査結果の説明をさせていただきます。
まず、重要な検査ですがBCR-ABL遺伝子検査というものがあります。これは慢性骨髄性白血病の原因遺伝子です。これに関して異常は認めませんでした。
次にエリスロポエチン値というものがあります。これは赤血球を作りなさいという命令文書ですが、これが高いと命令が出ているので赤血球を作っていることになりますが、出ていなければ命令がなくても勝手に赤血球を作っていることになります。
この検査は感度未満と異常値でした。赤血球は命令から逃れて、勝手に作っていると判断できます。
骨髄の検査では全ての系統の細胞が増えており、過形成と言われる状態でした。これは骨髄生検・骨髄穿刺とも同じでした。線維化と呼ばれる変化は認めませんでした。
特殊な検査としてJAK2遺伝子変異解析を行なっています(保険はまだ通過してないかもしれません。現場から離れてしまって、情報が・・・汗)。
これは赤血球を作れとか、白血球を作れ・・という命令を受ける血液細胞にある物質ですが、そのシグナルを過剰に送り続ける遺伝子の異常があるかを調べています。
(エリスロポエチン:赤血球、トロンボポエチン:巨核球、GM-CSF:顆粒球系のいずれもJAK2がその下流にあります)
で、この異常を認めました。
この時点で、慢性骨髄性白血病ではない、骨髄増殖性腫瘍(真性多血症、本態性血小板血症、骨髄線維症)のうち真性多血症という病気であることがわかりました。
これは血液が勝手に増えるようになる病気の中で、赤血球系を中心に全ての細胞が増える病気になります。
Kさん:がんなのでしょうか?
悪性腫瘍か・・と言われますと、どちらかといえば良性腫瘍に近いかもしれませんが、機能があるのと元々増殖するのが早いということもあり、一般的なポリープのようなものとはいえません。ただ、血液の悪性腫瘍である急性白血病に20年以内で7%程度の患者さんがなってしまうと言われています。
Kさん:私はどうしたら良いのでしょうか?
まず、真性多血症は先程申しましたが、赤血球を中心に増えていく病気です。赤血球が増えることで何が起きるかと言いますと、血液がドロドロになります。物理的にドロドロになるので、脳梗塞などの血栓症を起こしやすくなります。他に頭痛やめまいなどの症状があります。
この病気の死因の多くは血栓症です。そのため、血栓症を予防することが重要になります。
血栓症を予防する方法は2つあります。一つは赤血球などが増えているために血栓を起こしやすくなるので、赤血球を減らすことです。方法として2つあり、1つは瀉血と言って血液を抜いて捨てることです。もう一つは抗がん剤を使用します。
抗ガン剤についてはハイドロキシウレアという薬を使用します。この薬は白血病への進行を早めないと言われています
(無白血病生存期間:瀉血+インターフェロンというグラフと、ハイドロキシウレアのグラフは重なっています)
基本的には年齢が若い人は抗がん剤をできるだけ避けますが、高リスクの患者さん(60歳以上、血栓症の既往)のある方はハイドロキシウレアとアスピリンで治療を行うことが推奨されています。
Kさんは年齢が60歳以上なので、高リスク群になります。当初は瀉血も併用しますが、瀉血とハイドロキシウレア、アスピリンで血栓予防をしながら治療を行なっていきましょう。
こんな感じになると思います。
ポイントは最初に慢性骨髄性白血病を否定する必要があること、次に他の骨髄増殖性疾患の中では最優先で診断基準を確認する必要があること(骨髄線維症の診断基準では、真性多血症ではないことが必要です。本態性血小板血症では真性多血症でも骨髄線維症でもないことが必要になります)です。
ルキソリチニブはJAK1/JAK2の両方を抑える薬になります。そうすると骨髄系だけでなく、リンパ系も抑制します(JAK1はリンパ球を活性化するサイトカインの下流にあります。リウマチとかでJAK阻害薬を使用する場合は、JAK1阻害が狙いです)。感染症に弱くなるという問題点がありますので、適正使用ガイド(にも書いているはず)に書いてある通りに誰に使うかはよく考える必要があります(ほとんど真性多血症には使わないと思うのだが・・・)。
JAK2は骨髄線維症には保険収載されたんでしたっけ?
(聞くな・・・とツッコミ入れられそうですが)
あ〜、現場から離れるとそういう情報がわからないから困る・・・orz
いつも読んでいただいてありがとうございます。今後もよろしくお願いいたします。
P.S いただきましたコメントから、多血症後骨髄線維症の基準も載せておきます。
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