赤芽球ろうは100万人あたり0.3人と非常にまれな病気です。
赤芽球ろうは「赤血球系」のみが自己免疫でやられてしまう病気です。あくまで抵抗力や止血能力は正常です。
貧血や網状赤血球の著減が血液検査では認められ、骨髄の検査をしても赤血球系の細胞がない。赤血球を作れと言っても反応がないので、腎臓から出るエリスロポエチン(赤血球を作れと指令する物質)が著増しています。
この病気は病型診断が結構重要で、特発性なのか、胸腺種関連なのか、リンパ系腫瘍が関連しているのかは重要です。
それでは、簡単に説明を書いてみます。
Hさんは1〜2ヶ月前から動悸や息切れを自覚されていて、近くの病院を受診されたら高度の貧血があるということで、当科に紹介となりました。
クリニックの検査では白血球は4000/µl、ヘモグロビン(Hb)は6g/dl、血小板は30万/µlということで貧血のみが目立つデータでした。
当科で追加の検査を行ったところ、網状赤血球という若い赤血球が0.1%しかなく、実数としては1000~2000/µlしかありませんでした。これは赤血球を作る力を反映していますので、赤血球を作る力がないことを示しています。
他、血液像と言われる顕微鏡で血液の細胞を確認する検査では明らかな異常はありませんでした。
ちなみに、息切れを自覚される前に風邪をひいたり、何か新しい薬を飲むようになったりはしませんでしたか?
Hさん:もう2ヶ月前のことですので、あまり覚えていませんが、風邪はひいていませんし、体調が悪くなった記憶もないです。薬は特に飲んでいません。
なるほど、今の時点では「赤芽球ろう」という病気を疑っていますが、他の血液の病気ではないことを確認するために、骨髄の検査が必要です。症状もあり、高度の貧血ですので、もしよろしければ入院して輸血の準備をしている間に、そのような検査をさせていただけますとありがたいのですが。
Hさん:宜しく御願い致します。
(輸血の準備中に骨髄の検査を行い、輸血を受けいている患者さんに簡単な説明をします。)
Hさん、先ほどの骨髄の検査を少し確認してきました。正確な検査結果はしばらくのちに出てきますが、少し説明をさせていただきます。
骨髄の検査をしたところ、芽球と呼ばれる白血病細胞が増えているようなことはなく、明らかな形態異常を示す細胞もありませんでした。基本的に骨髄の密度は正常範囲内だと思いますが、赤血球系の細胞はほとんどいませんでした(5%未満が多い)。現時点では赤芽球ろうの可能性が最も高いです。
次の外来の時に他の検査結果も合わせて説明します。
Hさん:宜しく御願い致します。
(1週間後の外来で)
先日、高度の貧血で受診され、血液検査や骨髄の検査を受けていただきました。本日はその説明ですが、まず血液検査で先日は結果が出ていなかったものの1つにエリスロポエチンというものがあります。これは腎臓から出される「赤血球を作らせる命令」因子です。これが少なければ、エリスロポエチンが出ないために骨髄は血液を作らない状態にあります。一方、高くなっているようであれば、どれだけ命令しても赤血球を作らないので、異常に高くなっているということになります。
エリスロポエチンは5000 mU/mlと著増していました。
骨髄の検査結果は先日述べた通りです。このあと染色体検査は遅れて帰ってきますが、病状として赤芽球ろうで良いと思います。
赤芽球ろうは「赤血球系前駆細胞」がHさんの抵抗力に攻撃を受けて、赤血球が作れなくなる病気です。抵抗力の暴走で貧血が進むわけです。
その原因としてウイルスや薬などがありますので、先日少しお話を伺いましたが、記憶の範囲ではないというお話でした。
Hさん:はい、特になかったと思います。
残りなんですが、この病気は時々「胸腺腫」という病気と合併したり、リンパ系腫瘍と合併したりします(多いのは大顆粒リンパ球性白血病:LGL)。胸腺腫などのスクリーニングのためにCT検査を行わせていただきたいです。
Hさん:わかりました。いつ行いますか?
治療は早めに開始したいので、今日取れるように頼んでみます。
(HさんがCT検査を終えて帰ってきます)
CT検査では胸腺腫やリンパ節の腫大は認めませんでした。血液検査でもリンパ球の増加はなく、CD4/8比も正常であり、特発性赤芽球ろうと診断します。
Hさん:治療はどのようなものがありますか?
基本的にはシクロスポリンというT細胞というものを抑える薬を使用します。この病気はT細胞が赤血球系の細胞を攻撃して起こします。それを抑える薬です。
わかりました。宜しくお願いします。
こんな感じでしょうか。実際は薬の副作用など、さらに説明をします。2つの表が出ていますが、概ね初回治療の反応は悪くありません。
胸腺腫があったら、摘出するのが基本になります。LGL関連の場合はそっちを潰しに行く方が良いという話もあります。まれな病気ですので、主治医の先生とよく相談して治療に当たる必要はあると思います。
少しでも患者さんのお役に立てれば幸いです。
いつも読んでいただいてありがとうございます。今後もよろしくお願いいたします。
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