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血液専門医・総合内科専門医の17年目医師が、日常生活や医療制度、趣味などに関して記載します。現在、コメント承認制です。

急性リンパ性白血病に対する僕の説明(患者さん向け)

2017-12-04 20:00:00 | 患者さん用(説明の仕方シリーズ2017年版)

急性リンパ性白血病は成人では小児と比較すると少なく、一般的には予後が悪いとされています。

 

しかし、若年者(25歳以下、論文によっては30歳未満とするものもあれば39歳未満まであげた論文:海外の・・・もあります)に対する小児レジメンに近い強力な抗がん剤治療が予後を改善すると考えられています(実際、ステロイドの量やL-アスパラギナーゼ:ロイナーゼの量を増やした臨床研究が進んでいます・・もうすぐ解析されるのでは)。

 

また、成人で25〜33%の頻度とされているフィラデルフィア染色体陽性急性リンパ性白血病を「別のグループ」としたこと、治療もチロシンキナーゼ阻害剤を併用した治療を行うことで改善の兆しがあります。

 

そのため、今の時点ではさらに説明が変わるかもしれないと思いますが、記載していきます。ちなみにある程度は急性骨髄性白血病の説明と重なるところがありますので、引用します。

 

 


 

Bさんは貧血を主訴に近医を受診され、血小板減少と軽度の白血球増加もあることから当院に紹介となりました。外来でも少し申し上げましたが、急いで治療した方が良い血液の病気の可能性がありましたので、すぐに入院していただき、骨髄の検査を受けていただきました。

 

Bさん:何か診断はつきましたでしょうか。

 

実は今の時点では急性白血病を疑っております。しかし、急性骨髄性白血病に特徴的な所見が簡易検査(染色など)では認められませんでした。今の時点では染色法などでは判定できない急性骨髄性白血病か、急性リンパ性白血病と考えています。診断が適切に行われなければ、治療法も適切になりませんので、これからは一日かけて治療を行うための準備を進めていきたいと思います。

 

翌日、表面抗原解析(フローサイトメトリー)の検査結果が出たため、改めて説明します。

 

今までお待たせして申し訳ありませんでした。検査結果をお伝えする前に、昨日から本日まで行ってきた検査結果では大きな体の異常はなく、治療を行うに問題はなさそうだということを先にお伝えいたします。

 

結論から申し上げますと、急性リンパ性白血病と診断しました。

 

「白血球」の赤ちゃんに当たるもの、芽球と言いますが、それが増殖し、正常な血液が作れなくなる病気です。

 

正常な血液というのは酸素を運搬する赤血球、体を細菌やカビなどから守る白血球、血を止める働きをする血小板という3種類があります。

 

赤血球が減ってくると貧血が起きて、フラフラしたり、少しの動作で息切れしたりすることがあります。

白血球の中でも特に「好中球」が減ってきますと、抵抗力が弱くなり、空気中を漂うカビやお腹の中にいるような腸内細菌にも負けてしまい、生き死にに関わるような感染症を起こしたりします。今回はリンパ系腫瘍でもあるため、ウイルスなどにも弱くなっていたりします。

血小板が減ってくると出血しやすくなります。

 

血液検査では白血球が15,000/µlで芽球が90%以上となっています。ヘモグロビン(Hb)という酸素の運搬能力を反映する数値は7g/dlまで低下しており、これは輸血が必要になるレベルです。血小板も4万/µlまで低下しています。

 

骨髄検査では芽球が95%以上とほとんどが腫瘍細胞になっています。しかし、これは多くの急性リンパ性白血病で認める所見です(90%以上が多い、個人的には90%以上で貧血が進むようなのはALLが多いと思っています)。

 

Bさん:昨日ははっきりしないところがあったと伺いましたが・・・。

 

 

(この図が間違えていますね。三校のデータなので、修正されていませんが、AMLから下に行くことはありません。リンパ球系マーカーが陽性で、骨髄系マーカーが陰性なのでALLと診断されます)

 

はい、昨日は特殊染色などが陰性で、明らかに急性骨髄性白血病とは言えませんでした。そして本日検査結果を待っていたのが、この白血病細胞の特徴を細かく見る表面抗原解析という検査です。

 

この検査でBさんは骨髄系の特徴はなく、リンパ系・・・特にB細胞系の特徴が出ています。以上から急性リンパ性白血病と診断しました。

 

 

Bさん:治療はどう行なって行くのでしょうか?

 

治療ですが、急性リンパ性白血病は全身性の疾患で、固形癌のように手術で摘出することはできませんので、抗がん剤治療を繰り返していきます。これは急性白血病に共通の話ですが、急性リンパ性白血病で使用する薬剤と急性骨髄性白血病で使用する薬剤は異なります。

 

特に寛解導入療法ではステロイド剤を使用したり、L-アスパラギナーゼ(ロイナーゼ)を使用したり、髄注と言われる治療を行ったりします。

 

Bさん:髄注とはなんでしょうか?

 

髄注というのは腰から針を刺して、脳脊髄液というものがある空間に神経に毒性の低い抗がん剤を注入して、脳などに白血病細胞が入るのを予防します。急性骨髄性白血病では5%未満で、多くはM2の再発か単球系白血病と言われています。一方で急性リンパ性白血病では予防投与をしないと、21~50%の確率で中枢神経(脳や脊髄)に入ると言われています。そのためこの治療が行われます。

 

寛解導入療法と呼ばれる最初の治療の目的は「血液を正常な状態にし、骨髄の中の白血病細胞を5%未満にすること」です。この状態を完全寛解と言いますが、まだ10億もの白血病細胞が残っていると言われています。そこで地固め療法と呼ばれる治療が行われます。地固め療法はダメ押しの治療で、残った白血病細胞を駆逐して行くために行います。

 

地固め療法の途中で骨髄移植を行う患者さんもいますし、強い抗がん剤治療を行なった後に2年間の維持療法を行う患者さんもいます(急性骨髄性白血病ではAPL以外で維持療法は行いません)。

 

寛解導入療法、地固め療法では以下のような有害事象が発生することが予想されます。

 

まず、病気のせいで正常な血液が作れなくなっていますが、抗がん剤治療によりさらに血液が作れなくなります。

 

抗がん剤治療は抗がん剤に対して「白血病細胞」が弱く(効きやすい)、「正常な血液細胞」は抗がん剤からの「回復が早い」ことから成立します。最初の抗がん剤治療により白血病細胞は大きなダメージを受け、死んでいきます。そのダメージから回復する前に正常な血液が増えてきます。それにより完全寛解に80%の方が到達します。

 

しかし、抗がん剤によって正常細胞のダメージもありますので、貧血や血小板減少が進みます。貧血を放置すれば体の臓器に負担をかけ、めまいや動悸、息切れなどの症状が出現します。血小板減少を放置すれば致命的な出血が起きる可能性があります。それを起こさないように、適切なタイミングで輸血を行なっていきます。

 

また、好中球が減ってくると最近による感染症やカビによる感染が増えてきます。これに対しては抗菌薬や抗真菌薬の予防内服やアイソレーターや無菌室などの無菌管理を行なって対応します。それでも発熱する患者さんが多いので、発熱があればすぐに必要な検査を行い、強い抗菌薬治療を開始します(抗緑膿菌作用のある抗菌薬、カルバペネム系・TAZ/PIPC(ゾシン)・第4世代セフェムなど)。

リンパ系腫瘍の治療ではCD4リンパ球と呼ばれる免疫の指揮官のような細胞も減ってしまいますので、これらが減ると起きるニューモシスチス肺炎なども予防します。

 

Bさん:他にはどのようなことが起きるのでしょうか?

 

他には抗がん剤による副作用として嘔気・嘔吐があります。これは薬で抑えます。テレビドラマのような常に吐いてしまうというレベルではなくて、吐き気があって食欲が落ちるという可能性がありますが、多くの方はそれなりに症状を抑えることができます。

 

他に抗がん剤は良く増える臓器に影響を与えやすいので、腸粘膜のダメージにより下痢をしたり、髪が抜けたり(脱毛は最初の治療から2週〜3週で始まります)、爪に線が入ったり、口内炎ができたりなどすることがあります。脱毛については永久脱毛ではありません。

 

Bさん:他に聞いておくべきことはありますか?

 

実はまだフィラデルフィア染色体(bcr-abl)の検査結果が帰ってきていません。この検査が異常であった場合はフィラデルフィア染色体陽性急性リンパ性白血病の治療に基づいて治療が行われます。その検査結果を待つ意味とステロイド剤の反応を見る意味との2つから、最初の1週間はステロイド剤のみで治療を行い、検査結果を確認後にそれぞれの治療方針に分かれて治療を行います。

 

Bさん:わかりました。治療を頑張って受けたいと思います。

 

これから副作用の強い治療を行なっていくことになります。治療期間は8ヶ月ほどで、治療によって失われた体力を元に戻すまでも3〜6ヶ月ほどかかると思います。ご家族のサポートは非常に重要です。また、入院治療後も2年間の維持療法が必要です。

 

先ほども申し上げましたが、様々な副作用が出ることはありますし、他にも予想もしないことが起きることはあります。入院中は何か気になることがあったら、私か看護師などに伝えていただければと思います。

 

Bさん:よろしくお願いいたします。

 


 

 

こんな感じでしょうか。

急性リンパ性白血病は急性骨髄性白血病ほど固まった治療方針ではありません。もちろん、どちらの病気も治療法はこれから発展して行くとは思うのですが、2001年の臨床研究の治療法で急性骨髄性白血病は一旦完成系となっています。今後は分子標的薬が出てくると思いますので、それとの掛け合わせになるのでしょう。

 

急性リンパ性白血病はフィラデルフィア陽性と陰性でわけ、さらに小児用レジメンのような強力な治療法(子供の方が体重あたりという意味では、抗がん剤に耐えられるわけです)がどこまで有効かがポイントになってきます(年齢ですね、大まかには)。

そうすると以前は移植しないといけないという急性リンパ性白血病の治療が、変わって行く可能性があるというわけです。

 

治療法の変化が今起きているのが急性リンパ性白血病で、その結果はまた近いうちに発表されると思います。

 

・・・その頃は僕もアカデミックな場所で治療に携わっていたいものです。

 

いつも読んでいただいてありがとうございます。今後もよろしくお願いいたします。

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それでは、また。

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コメント (2)
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