山頭火つれづれ-四方館日記

放浪の俳人山頭火をひとり語りで演じる林田鉄の日々徒然記

夏草の下も払はぬふるさとに‥‥

2007-06-17 23:42:02 | 文化・芸術
Florence

―表象の森- 若桑みどりの「フィレンチェ」

RENOVATIO ROMAE-ローマの再生-古代ローマの子としての特別な運命を自覚した都市フィレンツェ。
中世からルネサンス最盛期へと、共和国都市としてあるいは先進商業都市として、ヨーロッパを牽引しつづけたフィレンチェ。
著者若桑みどりは西洋美術史やジェンダー史を専門とし、他に「薔薇のイコロジー」や「マニエスリム芸術論」などがあるが、本書は副題に世界の都市の物語とあるように、ルネッサンス期イタリアの花の都フィレンチェ興隆の歴史を、美術や建築の綺羅星の如き膨大な文化遺産を織り糸に絢爛としたTapestryに紡ぎあげた労作といえよう。
ダンテ、ジョット、ボッカッチョ、ブルネッレスキ、ギベルティ、ドナテッロ、ダ・ヴィンチ、ミケランジェロ、マキャヴェッリ、ラファエロたちの作品の数々を渉猟しながら、メディチ家の栄華と興亡を詳説。
440頁余に図版272を含む豊富さで、圧倒されるばかりの情報量だが、惜しむらくはモノクロだし文庫版だけにサイズも小さくなって、なかなか此方の想像力を充分に羽ばたかせてくれないのが些か物足りなさを残すのはやむを得ないか。
とはいえ2000年の1月、一週間という束の間ながらイタリアに旅をしたこの身、フィレンチェでの滞在は1泊2日のみだったが、この折りに見た絵画や彫刻、教会建築などの数々がまざまざと甦って、ずいぶんと読みの補強をしてくれたが、逆に本書ほどの予備知識をもって出立しておれば、旅の感銘もさぞ強く刻み込まれたろうにと悔やまれもする。


<歌詠みの世界-「清唱千首」塚本邦雄選より>

<夏-67>
 夏苅の玉江の蘆をふみしだき群れゐる鳥の立つ空ぞなき  源重之

後拾遺集、夏、題知らず。
生年不詳―長保3(1001)年。清和天皇の皇子貞元親王の孫。従五位下相模権守。藤原実方の陸奥守赴任に随って下り、陸奥で歿す。三十六歌仙。小倉百人一首に「風をいたみ岩うつ浪のおのれのみ‥‥」、拾遺集以下に67首。
邦雄曰く、玉江は越前の歌枕、普通なら蘆刈狩は晩秋・初冬のものだが、これは猛々しい青蘆刈の後。その鋭い切り株に踏み迷って、巣作りもできず、行くあてもない鳥たちの、不安な佇まいが、そのまま歌の調べとなった。「夏刈の萩の古枝も萌えにけり群れゐし鳥は空にやあるらむ」が家集の百首中にあり、同趣だが、玉江の蘆のあはれには及ばない、と。


 夏草の下(もと)も払はぬふるさとに露より露より上を風かよふなり  藤原良経

六百番歌合、夏、夏草。
邦雄曰く、言いも言ったり「露より上を」とは小気味よいほどの的確な修辞であり、あっと言いたいくらいの発見だ。それでいて秀句表現のきらきらしさがない。ただ俊成は「下も払はぬ」を心得ぬとして、右の慈円の凡歌を勝たせた。だが、右方人の第四句陣難は敢然と斥けて「左歌「露より上を」と云へるは、いとをかしくこそ侍るめれ」と推賞している、と。


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