本能寺の変 「明智憲三郎的世界 天下布文!」

『本能寺の変 431年目の真実』著者の公式ブログです。
通説・俗説・虚説に惑わされない「真実」の世界を探究します。

兼見卿記:金子拓准教授の強引な論理

2014年07月12日 | 通説・俗説・虚説を斬る!
 NHK歴史ヒストリアで本能寺の変を取り上げていました。公家の吉田兼見、イエズス会宣教師オルガンティーノ、将軍足利義昭を黒幕説の主人公として取り上げて、それぞれの説の妥当性を論じる番組でしたが、例によって賛否両論併記のエンタテーメントに終始し、結論は「謎!」。かつて放送されていた『その時歴史は動いた』に比して番組制作姿勢の民放化を憂える声も聞こえます。
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 さて、ここで取り上げるのは吉田兼見の日記『兼見卿記』の書き換えについて、番組に登場した東京大学史料編纂所の金子拓准教授が展開した自説がいかにも強引な論理だったことです。金子准教授は兼見が天正十年正月から六月十二日まで書いた日記をそこで止めて(この日記を別本と記します)、あらためて正月から書き直して一年間書いた(これを正本と記します)のは「朝廷と光秀との親密な関係を隠すためではない」と主張しました。その論理は次の3点です。
1.別本はそこで日記帳の用紙がなくなったので、新しい日記帳に天正十年分を正月から書き直しただけである。
2.別本と正本には「意味のない書き換え」が多数あり、朝廷と光秀の親密な関係を隠す目的で書き換えたのではない。
3.もし、朝廷と光秀の親密な関係を隠すのであれば別本を処分しないで残していた理由がわからない。

 しかし、この論理には次のような疑問が生じます。
1.天正十年六月十三日という特別な日(山崎の合戦で光秀が敗戦した日)でちょうど紙がなくなって新しい日記帳に替えるという偶然が起きるのか? また、新しい日記の用紙に六月十三日から書き始めるのではなく、なぜわざわざ正月からの半年分を書き直さねばならなかったのか? 別本を残したぐらいであるから、正月から書き直す必然性がない。
2.そもそも日記というものの性格を考えれば書き直す際に、一言一句正確に書き写す必要性は全くない。だから、「意味のない書き換え」が多数起きるのは当然である。一方で、朝廷と光秀との関係を書いた部分は明らかに「意味のある書き換え」が行われている。これを見れば、「朝廷と光秀の親密な関係を隠すためではない」とは決め付けられない。
3.書き換えは六月十三日の光秀敗報を聞いて直ちに行ったかもしれない。光秀と親しくしていた自分が家宅捜査を受けるかもしれないと危機感を抱くのは当然だからだ。また、六月十四日に織田信孝の使者と称する津田越前入道が「光秀が禁裏・五山へ配った銀子が怪しいので詳しい事情を聴きたい」と兼見邸を訪れている。そこで、津田の再訪・家宅捜査という事態に備えて書き換えたのかもしれない。
 ところが、兼見は津田来訪の件を即刻、禁裏に報告し、秀吉の奉行人に使いを送り問い合わせたところ、津田は信孝の命令で動いたのではないので安心せよとの返事を受け取っている。信孝に送った使者も同様の回答を持ち帰った。こうなれば、家宅捜査の不安もなくなり、別本をそのまま残した、と考えることができる。
 それどころか、兼見には別本を積極的に残さねばならない理由があった。それは別本が天正九年の日記帳に続けて書かれているからだ。別本を処分するためには天正九年分も新たに書き直さねばならなかったのだ。

 金子准教授が番組中で語ったことは自著『記憶の歴史学』の第四章に36頁を費やして書かれていることのエッセンスですが、この本を読んでみても上記の疑問に変わりはありません。
 おそらく、自著『記憶の歴史学』第四章の155頁から157頁にご自身が展開している、桐野作人氏や藤田達生氏が朝廷黒幕説・朝廷関与説の証拠としてこの書き換えを用いたことを否定する説明のために金子准教授は強引に論理を組み立てて答を作ってしまったのではないでしょうか。
 拙著をお読みの方はご存知のように私も朝廷黒幕説・朝廷関与説を否定していますが、吉田兼見は「朝廷と光秀の親密な関係を隠すために書き換えた」と判断しています(『本能寺の変 431年目の真実』第9章の「吉田兼見の偽証」の節(199頁))。これが素直な論理でしょう。
 これは、あの高柳光寿氏以来の多くの研究者が主張していることと同じです。拙著『本能寺の変 431年目の真実』に書いたことで、このように高柳氏ほか多数の研究者と見解が一致しているのはこれが唯一と思います。
 高柳光寿氏などそうそうたる研究者の説を否定したことは思い切ったことだったと想像しますが、『兼見卿記』の研究成果にオリジナリティーを出したいがために肩に力が入り過ぎたのではないでしょうか。
 なお、これによって著書『記憶の歴史学』の価値が失われるものではないことを念のため付記いたします。

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