医師日記

「美」にまつわる独り言です
水沼雅斉(みずぬま まさなり)

「罪と罰」に見た美学15

2007年07月31日 12時04分41秒 | Weblog
 そして江川氏によれば、本書にはキリスト教正教のみならず、土着の大地信仰、ギリシャ・ローマ神話までもが、巧妙に刷り込まれているということです。

 また、指摘されてこれはな~るほどとつくづく思いましたが、この小説全体に流れるのは、「水」のイメージ・・・

 窓のない船室、息苦しい都市「水の都」ペテルブルクという巨大な船、ロシアというさらに大きな船、動物を配置したノアの箱舟が巧みにイメージされていると・・・。

 確かに・・・その通り。

 それにしても、ラスコーリニコフの生活地図に十字架を見つけ、蜘蛛一匹、ハエ一匹に執着し、さらには時間的な仕掛けを実証して、歩数から実際の距離から日照時間まで調べ上げ、重ねて暦と聖書とのつき合わせと・・・

 3年間、一冊の書物に血道(ちみち)を上げた江川氏は、かなりのドスラーと言え、ただモノではありません。

 「謎ときカラマーゾフ」より本書のほうが、極めて優れているように感じました。

 前述しましたが、マグダラのマリアによって新生したロシアの若きキリストは、愛にひざまづきはしましたが、殺人という罪を心から反省したとは思えません。

 そこいら辺の、のどにひっかかる小骨も「謎とき」には詳述されております。



 また、井桁研究室によれば、

http://www.kt.rim.or.jp/~igeta/igeta/index.html

 本書には「銀30枚」という語句が何回も登場します。

 裏切りと罪のシンボルである銀30枚と言えば、キリスト教文化圏では間違いなく「キリストを売ってしまった」というユダによる罪の行為を連想させるものだそうです。

 またソーニャがかぶる「緑色」の布に関して、あるイコン展でのロシア聖母像のいくつかが、緑色のショールを掛けているのを目にしたそうです。

 カトリックではマリア様は、聖母の着衣の決めごとにもとづき、赤い衣の上に「青いマント」が目印となり、また白いユリで描かれますので、赤・青・白がシンボル。

 赤は「神聖なる愛」、青は「天上の真実」ということです。

 ロシア正教のそのプログラムには、「緑は永遠の生命を表す」と書かれていたそうです。

 緑はヨーロッパ文化の伝統の中では、清浄を表すシンボルであり、豊饒、新鮮さ、希望、自由、喜びのシンボルとなり得ることも分かった、と書かれております。

 
 サンクトペテルスブルクは、「琥珀」で書いたように、プラハとともに僕にとってまだ訪れた事はない憧れの都市ですが、「罪と罰」探訪という、興味深い観光もありましたよ。

http://www.miras.info/dostoevskytour.htm



 無神論的個人主義の現代社会の競争に疲れたみなさま、120年前の巨匠の慈愛に満ちた教えに包まれてみませんか?